渡り鳥シリーズ1

 黒縁の眼鏡をかけた男性が、七財橋(函館市豊川町)のたもとで小林旭に風船を渡している。男性は当時、市内西川町(現大手町)で小間物店を営んでいた故K・Yさん(享年90)この写真は「ギターを持った渡り鳥」の撮影風景だ。「子煩悩で優しい父。映画は今でも良い思い出です」。湯川町のK・Yさん(61)、Mさん(60)兄妹はなつかしそうに話す。

さん(享年90)は東京生まれ。18歳で司法省に入省したが低給与のため退職し、徴兵後の1945年、妻の故郷函館で商売を始めた。
 出演依頼は知り合いの問屋を通じて受けた。店番は奥さんに任せ、兄妹を連れて撮影に出かけた。現場は見物人で人だかりができていた。


ギターを持った渡り鳥

 「おじさん、黄金飴(あめ)と風船ちょうだい」と小林旭。「はいはい、60円です…ありがとう」小林旭に、手早く商品を渡して会釈するさん。「小林旭は背が高くて良い男だった。全然オドオドしない父をすごいと思った」12歳だったMさん(兄)は日活のスーパースターを相手に、自然な演技を見せる父の姿が目に焼き付いている。セットの風船作りを手伝ったYさん(妹)は当時13歳。「俳優さんは皆、アカ抜けてたとふり返る。

KY・Mさん  商売一筋 町の「デパート」

 公開後、父と劇場に観に行った兄妹は20秒ほどのシーンに「出た!出た!」と大喜び。現場に来られなかったM子さん(奥様)も、撮影後は小林旭ファンになり、テレビや映画を熱心に見るようになったという。
 洋裁糸、手芸用品、食料品、日用雑貨…。戦後の貧しい時代、客の要望に合わせて何でも仕入れた店は、近所から“Kデパート”と呼ばれて頼りにされた。


「父は良い映画に出演させてもらった」と話す兄妹。
撮影時、七財橋のたもとにあった電柱は撤去され、今は人が行き交う観光名所に

プラモデルや文具類も扱い、子供のたまり場にもなった。夜桜や運動会にも出かけ、露天商としても稼ぎ、神山町でも数年経営していたが、73年頃に閉店。その後、湯川町に一家で引っ越した。

 最近、Y雄さん(兄)は「渡り鳥シリーズ」のDVDを購入した。十数年ぶりに目にした若き日の父の元気な姿に、涙があふれた。
 M子さん(妹)は、アルバムにあった撮影風景の写真を、いつも見えるようにテレビの上に飾った。兄妹にとって「ギターを持った渡り鳥」は、商売に明け暮れた父の人生の1ページが刻まれた特別な作品だ。「父さん、良かったね」“屋台のおじさん”としてフイルムに残る父を思い出す度、M子さん(妹)は遺影に向かってそっと話しかけている。
(「函館新聞」2008年5月20日より)

《管理人のコメント》
正直なところ、実に羨ましい話ですね。お父様が小林旭さんとエキストラ共演なんて、一生の素敵な思い出です。私個人としてもあやかりたい。タイムマシンがあるならば、あの頃に戻って、渡り鳥にエキストラ出演したかった。
上記記事は以前にも掲載しましたが、再構成して掲載します。後にシリーズ掲載します。

2008年5月20日 函館新聞 掲載

「函館新聞」新目七恵 様に感謝致します。