※IE(インターネットエクスプローラーをお使いの方は、文字の大きさを90%(小)に設定して下さい。100%ではレイアウトがずれます)
<文中敬称略>
 
 これは渡り鳥シリーズの中でも最高傑作といわれる『大草原の渡り鳥』のロケ拝見記を綴ったものです。 映画をご覧になった方には、細部にわたって興味深いものがあると思います。未見の方には、これらを一読いただいて是非一度、ビデオ、CSなどで、ご覧下さい。


 シリーズ最高の日本版西部劇

 この作品の特色は、日本版西部劇として発足したものだが、こんどの『大草原の渡り鳥』は、この西部劇調の感じが 強く、まったくの西部劇といってよいほどの作品である。

 それだけにアキラくんの衣装は、黒革のジャンパーに細い皮のフサを沢山たらし、黒のズボンに黒の長靴と粋ないで たち。また、この作品に重大な役割を演じている坊や信夫少年に扮している江木俊夫ちゃんとのコンビも、まったく西 部劇の名作“シェーン”を想わせるような面もある。
 この小林旭くん、江木俊夫ちゃんを中心に浅丘ルリ子さん、宍戸錠さんとこの映画おなじみのメンバーで涼しい北海 道は釧路で列車を降りたのは、初秋の夕暮れ、そこからバスで三時間走ったところにある温泉場、川湯温泉に向かった。
 バスガイドの歌うアイヌ民謡にロケ隊一行は修学旅行のように大はしゃぎ、なかでも景気よく歌い出したのは、アキ
ラくん得意の“ソーラン節”(この映画の主題歌)川湯温泉に着いた時には、アキラくんののどはカラカラ『コロムビアの吹き込みのときだって、こんなに声をはりあげたことはないね』と温泉につかって、また歌い出すというゴキゲンな北海道第一夜。
 明けてロケ第一日目は、絶好の晴天で阿寒の山脈が朝日で白く光り、初雪の衣を着たような山肌が見える。 早朝六時、 ロケ現場は、川湯温泉からロケバスで、二十分。黄色い噴煙と草木のない奇岩を露出させた硫黄の山麓。 ロケ隊総勢は、
八十人という大掛かりなロケだが、スタッフもまた、俳優さんたちも、シリーズでおなじみの人ばかり。
 まず最初の問題は、アキラくんの乗る馬の選定。なにしろ西部劇だけに、馬が重要な役割をするので大変な熱の入れ方。さて数時間に亘って決められた馬は、非常に元気の良い馬で、こんどは、乗り手のアキラくんの体を心配するなど
スタッフも真剣そのもの。ところがヒラリとまたがったアキラくんの手綱さばきは、監督の斉藤さんもビックリ。 『いつごろからあんなに、うまくなったんだい。なにしろアキラくんは、カンが良いし、運動神経が発達しているから乗馬なんてもってこいなんだね』と、渡り鳥シリーズの成功をちょっと、ほのめかしていた。
 さて、乗馬の練習を終えたアキラくんは、いよいよ撮影開始。

 拳銃(ガン)さばきもあざやか

 この硫黄山の撮影シーンは、アキラくんと一緒に北海道に流れて来た信夫少年(江木俊夫)が悪人の手につかまり、 危機一髪というところへアキラくんが少年を助けにくる というこの映画最高の見せ場というより、アキラ得意の拳銃さ ばきを見せるというところ・・・。
 さて、この拳銃だが、シリーズも快調に進みアキラくんの使う拳銃用として新しく作ったもので、デザインはアキラ くん自慢のものとしてスタッフ仲間で評判。
 クルクルッとピストルを廻して右に左に射ちまくるアキラは飛燕のごとく岩場をとびまわり、身の軽さを充分発揮する。『すごいね、黒いリスみたいだね』とそばにいて、錠さんはまったく感心しきったようだ。
 さて次の瞬間、馬に乗ろうとしたとき、元気の良すぎる馬なので、さっとばかりに係員の目をかすめて硫黄山の麓に向かって脱兎のごとく逃げ帰ってしまった。さあ馬がなくては大変と、スタッフが右往左往しているすきにジープに乗 り込んだアキラが得意な運転の腕前にものをいわせ馬を追っかけ始めた。待つこと十分、馬を現場に連れて戻ってきたアキラ、「いささかオレも参ったよ。運転の腕前は誰にも負けないけど、 この馬には参ったね」それだけにアキラが
疾走する効果は満点。

 コインを使った拳銃(ガン)ゲーム

 次のカットは、ボスの情夫である南田さんがギャングの非常な銃弾で倒されるところだが、和服を着て山を駆け上 がるという むずかしい状態にさすがの南田さんもホウホウの態だが、さらに困ったことは、硫黄山だけに、ガスが発生、倒れたままの状態で、ジッとしていることは大変な忍耐がいる。
 『あたしこのくさいにおいかいでいるのなら死んだほうがましだわ』と苦しがる様は、まったく役の条件にピッタリ。『ずいぶん迫力がありましたよ』と監督が大喜びだった。
 昼メシどきは、どのロケでも同じ和気あいあいとした雰囲気で過ごすが、この斉藤組だは、大変な遊戯で昼ののひ
とときを楽しむことになっている。
 俳優さんそれぞれが持っている拳銃を取り出し、照準(銃の先端に突き出たもの)の上に十円玉をのせ、引き金を ひく・・・。なれないと簡単に十円玉は落ちるが、アキラくん、錠さんなどはなかなかの腕前、この日はついに錠さんが負けたが、アクション映画のロケ隊らしい大変なお遊びだが、俳優さんにとっては、非常に拳銃の構えに対する勉強になるらしい。
 硫黄山の撮影が終わったロケ隊は、次の予定地である阿寒国立公園内でも最高に景色のよい所といわれる屈斜路湖を望む美幌峠の頂上に向かった。

 いよいよ アイヌ部落へ

 左にアイヌ部落、右に屈斜路湖畔と、絶景をバスがぬうこと三時間、美幌の頂上に着いた。ここは硫黄山と違って観光バスがひっきりなしに集まってくる所で、頂上も大変な人出。頂上の小高い所に白木の墓標が立ち、きれいな花 がそなえられ、素晴らしいお墓がある。この撮影用に建てられたもの。この前で本編のラストシーンである別れのシーンが撮影されるのだ。ルリ子がひきとめるのをふりきってアキラは、この地を去るという設定。
 しかし、あいにく天候が悪く天気待ちとなった。こうなると、じっとしていられないのがアキラくん、百五十メートル位の小高い丘に向かって馬にまたがり、かけあがるという危険な乗馬ぶり。
 天気の快復を待ったロケ隊は、撮影開始。アキラくんをひきとめようとするルリちゃんの演技も熱が入りすぎて急 なガケから落っこちそうになった。『ルリちゃんのは、ひきとめるんじゃなくて、突き飛ばしだね』とジョークも入る明るいラブシーン撮影。
 北海道へ来たアキラくん、ルリちゃんにとっての願いはアイヌの人と記念写真を撮りたいということだが、なかなか見つからない。そんな時、アイヌの老人と娘が現場に近づいて来た。『ああ来た来た、ルリちゃん。アイヌ人だよ』 といってアキラくんがよく見れば、なんとウチの俳優さんと、娘の方は白木マリさんだったから大変な騒ぎ。
 『あら! マリちゃんだったの?』 とルリちゃんも間違えるほどのアイヌ娘になりきっている。『あら、ルリちゃん も間違えたの? 今この山の下にいたら観光客に記念写真を撮らしてくれっていわれてびっくり! でも、嬉しかったわよ。それほど似ているのかと思って・・・』 これを聞いたアキラくん、『このまま北海道に残っていただきましょうか』

 突如、出現したアイヌ部落!

  美幌峠の頂上をあとにしたロケ隊は、いよいよ撮影の重要な場面である網走の原生花園に向かった。原生花園という名のごとく、広大な草原に花が咲き乱れ、自然の楽園という名がピッタリするほどの素晴らしいところ。
 『わあ素敵ね!はまなすの実ね』と花園に一歩踏み込んだとたん、その夢みたいな雰囲気はまったくくずれた。『ルリちゃん、どうしたの?』とびこんだとたん『あっ』とばかりにアキラくんも飛び上がった。それもそのはず、花園は牛の糞で一杯。 気がついた時は、遠くに牛の群が放牧され、原生花園を囲む屈斜路湖の水にきれいにうつり、糞の気持ち悪さなどふっとんでしまった。この花園に突如出現したのは、アイヌ部落だ。
 これは撮影用に使うために、東京から美術部さんが一瞬にして花園にわらぶき屋根の小屋を十幾つも建ててしまった。 それに本物のアイヌの人た、アイヌ部落をインディアンにしているのである。最初の撮影は、悪役連中がアイヌ部落をつぶしにくるシーン。ジープに乗った十名くらいの悪者がアイヌ部落の広場に飛び込んでくれば、アイヌに扮した女たちが逃げまどう。 しばらくすると、馬にまたがったアキラが部落に飛び込んでくるとサッとばかりに広場に立つ…。
いよいよアキラの得意の決闘シーンが始まる。

 涙をさそうラスト・シーン

 午後に入っていよいよアクション。ルリちゃんが悪役の太い腕の中でもがいているのを見つけたアキラくん、すぐさま、悪者の一人に向かって行き、えりがみをつかみ殴り倒す…。 瞬間『アッ』とファンが歓声をあげるという見せ場中の見せ場だ。手、足と縦横無尽にふりまわすアキラくんの動作に悪役連中は次々倒され、最後は冷たい屈斜路湖の中にザンブと投げ込まれ、 全員ふるえあがってしまった。
 さて宍戸さんはと見ると、一生懸命アイヌ彫刻に余念がない。『なにしろ名前を残したいと思ってね「殺し屋彫刻」かなんかの看板でも立ててもうけるか』と、 油絵を描くことで有名な錠さんだけに非常にうまい。これを見たアキラくん、ちょっと一言、『錠さん、看板立ててもうけるのもいいが、キティーちゃんのワッペンつけたほうがいいよ。なにしろここは網走だから刑務所も近いし…』 と大笑い。このアキラくんの言葉に錠さんも負けてはいない。『そうなりゃ、アキラが助けてくれるさ、ギターかなんか抱えてかけつけて…』と応酬するなど、大変なもの。
 出来上がったペンダントは、ファンがつめかけ素晴らしいばかりのものとなったが、 当の錠さん『恥ずかしい』とばかりに頭を抱えてしまった。
 頭を抱えた錠さんにもっと大変なことが持ち上がった。錠さんの乗馬シーンの撮影だ。アキラくんとは対象的にまるっきり馬に弱い。『錠さん、殺し屋なんだから、そう馬に弱くちゃ困るな』斉藤監督さんがいえば、 『いやあ、この長い顔になんともいえない気持ちになりましてね』といいながらも、鮮やかな乗馬ぶりをしたが、もうあと一歩というところで、完全な落馬。『もう先生、馬はカンベンして下さいよ。なんか網走刑務所に入ってた方が楽だな』と、とんでもないことを言い出す始末。
 こうして最終のロケ予定地、摩周湖に出かけたのは、夕焼けも赤く摩周の水も冷たく光っていた。アキラくんと坊やが馬に乗ってゆくシーン。 だが、なんとも景色が良いうえに、アキラくんの手綱さばきがうまいので、坊やはコックリ、コックリ。斉藤監督が『テストッ』と大きな声をはりあげると、アキラくんはゆっくり馬をすすめてゆく…。 『坊や、もっと顔をあげていなけりゃだめだよ』と斉藤監督の注意にもまったく知らぬ顔。『アキラくん、坊やを寝かしちゃ困るね』という監督さんの言葉に、『だって「子守歌を歌ってくれ」というから…』とあまりに、アキラくんの歌がうまいのか、坊やは、コックリ、コックリ。 『よしっ』とばかりに坊やが寝ていたほうがいいということになって、このシーンOK。
 ラストシーンに坊やが、アキラくんを追いかける撮影は、ファンもスタッフもグッと胸に来てしまった。アキラくんが馬で遠くへゆく……『おにいちゃん、おにいちゃん』と坊やが追いかける。ルリちゃんは大きな目に一杯涙を浮かべて、ラストシーンは撮られていった。
 こうして阿寒全域に亘る長期のロケを終え、釧路に下ったが、こんどは大変なファンにもみくちゃにされ、これはたまらぬとばかりに帯広市に向かったが、またもの凄いファンに押し掛けられ、ほんとうにもみくちゃロケといった有様。
 マイト・ガイの北海道めぐりは、網走、釧路、帯広とさいはての町にダイナマイトをぶちこんだような騒ぎで終始。マイト・ガイ、渡り鳥は、次の作品のロケ現場、松山の道後温泉に向かうため、東京の空へ発った。津軽の夜の海が、二時間たって羽田のネオンの海とかわった時、マイト・ガイの胸の中に楽しかった北海道の美幌峠の眺望がキラッとひらめいた。


                (資料:「別冊近代映画・大草原の渡り鳥特集」より)

 特集2 名コンビ対談 へ
 
 特集3 斉藤武市監督インタビュウ へ

 
TOP | WHAT'S NEW | MOVIES | SONGS | OTHER | Legend of JOE | INFORMATION | BBS | LINK