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 哀愁あふれる『シェーン』ばりの映画

 『大草原の渡り鳥』は、日活渡り鳥シリーズの第五弾目にあたるわけです。 北海道の釧路、網走、阿寒湖、摩周湖という大自然をバックにアキラが大暴れする映画です。 大体、日本調西部劇を一部の人々は“アチャラカ”であるとか、“無国籍映画”だと呼んでいるようですが…。
 しかし、私の狙うのは、アキラの正義心と、錠との男の対決といったものを大きな狙いとしているのです。 要は多くの人々生きるハリを与え、無条件に喜んでもらう作品を作りたい、ということなのですが、 果たしてそれがどの程度まで成功するか。 大体のストーリーを述べながら私の演出態度といったものを申し上げてみましょう。
 信夫少年の母親和枝を訪ねに北海道へ来た伸次は、釧路のバーに行きます。 和枝はそのバーのマダムなのです。ところが和枝はボスと出張中で留守。さらに伸次が昼間ボスたちから助けたアイヌのセトナが、ボスの乾分にひどい目にあっています。
 このようなシーンで始まりますが、まず、いままでと変わっているのは、少年の登場です。少年を連れ、ギターを背に負いながら北海道に現れるアキラという設定なのです。
 数年前のアメリカ映画に『シェーン』という優れた西部劇があります。 西部劇といえば、バンバン拳銃をうちあい、大平原を馬で疾走するというシーンをすぐに思い浮かべるでしょうが、この『シェーン』は、従来の西部劇とは大分おもむきが変わっていました。 主人公のシェーンは、早うちの名人ですが、そのシェーンを兄のように慕っている少年が登場しました。 少年が可憐な声でシェーン!と呼ぶ声がいまでも耳の底に残っています。 もの悲しい主題歌がバックに流れ、哀愁あふれる西部劇の異色作でした。
 今度の作品のファーストシーンは、阿寒連峰を臨む摩周湖の尾根道をギターを持った伸次と少年が馬に乗って釧路の町へと向かいます。 アキラが強いばかりではなく、子供を連れてその母親を探しにさいはての国北海道へやって来た、というところに、抒情味を盛ったわけなのでした。
 いわば『シェーン』の日本版といったところで、日本版西部劇の新境地を狙ったつもりでいます。 また、アメリカの西部劇には、よくインディアンが登場しますが、それに代わるものとして、今度の作品ではアイヌを登場させているのです。
滅び行く民族の哀愁をテーマにしております。ボス一派が飛行場建設を計画しその土地に住むアイヌたちを様々な方法でいじめぬく…。 それを知った伸次が敢然と立ち上がり、ボス一派をやっつけるというわけです。
 そして、最初は悪の一味だったハートの政(宍戸錠)も、伸次の純情に泣き、善にめざめるというのです。
私は“渡り鳥シリーズ”を撮るために日本全国を歩き廻りましたが、今度の場合が一番素晴らしかったと思っています。
この作品は日本ばなれれがしているストーリーです。それだけにやはりバタくさい背景が必要なのでした。
そして、殊に原生花園、濤沸湖畔一帯の風景は、この映画にピッタリだったと申せましょう。

 雄大な自然がバック 愉しい映画に!

 原生花園とは、一口にもうしますと、網走から斜里までの砂丘一帯をさすのです。 ここの風景は、海岸、砂浜、砂丘、草原、潟湖、山岳などから形成されています。 砂浜というのは、単調なものなのですが…。しかし、その単調さが、オホーツク海の茫洋とした色調と調和しているのです。 それが、知床半島の山岳連峰を豪壮なものとし、砂浜から背後につづく草原は、お花畑の美しさをもって知られています。
 (中略)ロケは夏の間に行われましたが、しかし北海道は初秋の感じです。そのため暗さはありませんが、荒々しい大自然は、充分に表現することができました。 この荒々しい大自然をバックに少年の母を思う気持ち…。その少年を優しくいたわるアキラ…。そして、また悪に向かうファイトを充分に描きたい、というのが私のねらいでした。
 さらに、アイヌの滅び行く悲愁もおりこむわけです。現代は人間の力で自然を克服することもできますが、以前はそうではなかった。自然に打ちひしがれ、日本人の迫害をうけてアイヌは滅びようとしている。やっと生き残ったアイヌを、さらに迫害しようとする悪人たち。これはあくまでもフィクションですが、そのフィクションを通じて、悪への闘いを描きたい。
 アキラは魅力にあふれた好青年です。彼の魅力は、健康で溌剌とした点にありましょう。しかし、強行スケジュールなので、無理させてはならないと思っています。いくらタフ・ガイでも身体には限界がありますから、充分に健康に留意せねばなりません。 また彼は運動神経が発達しているのが何よりの武器です。
歌もうたいます。私は歌に関しては素人で、彼の歌の善し悪しは判りませんが…。彼の一生懸命にうたう歌は、きっと私たちを愉しませてくれることでしょう。ファンのご期待にそうよう愉しい映画にするつもりでおります。


 <管理人注>
 文中の中略はロケ地の自然景観についてのみ述べられたものなので割愛しました。
 内容は、昭和35年当時のインタビュウです。

                       (資料:「別冊近代映画・大草原の渡り鳥特集」より)

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