■高音で売れっ子の二人が初対談!(部分的に抜粋)
小林旭さんは『大暴れ風来坊』の四国ロケの出発前でした。
小林:三橋さんはスリラー・ブームがくるとそういう傾向の歌(『壁』という曲)をやられるし、ロカビリー全盛にはロックをやる。立派だと思いますね。
三橋:そんなにおだてなさんな。こっちにだってあんたをほめる材料がいっぱいあるんだから‥‥
小林:こわいな。
三橋:映画ばかりじゃなく、歌の世界に足を入れて、一流の味を出してることが、まずほめはじめ。
小林:いや、一流なんて。シーチョウ(調子のよさ)だけで歌ってるんですから。
●ふたりの話は弾み、三橋さんが巡業先のバーで旭さんの『鹿児島おはら節』が流れていて、気持ちよく歌ってるから調子にのせられて思わず、ふだんの倍くらい飲んでしまったとのこと。旭さんが「そこがバーのツケめなんですね」と返すと、三橋さんは「ツケじゃなく現金で払って来たよ」とダジャレをとばすリラックスした雰囲気。
三橋:あんたはもっとでかいことをやったらいいよ。映画はすでに第一人者になってるんだしね。
小林:いや、まだまだです。だけど、日本の流行歌ってのは難しいですね。
三橋:ほんとに難しい。パーッと表に出したのを、もういちど裏返してからでないと小節が生きてこない。
小林:それでいて、アッピール(訴える)するところも大切だし…
三橋:そうそう。のびるところは、全身で歌い込まないと、どうしても心にしみて行かないんだ。ぼくなんか、体が小さいし、爪先まで声を出すつもりでね。あんた、体が大きい割に高い声を出してるねェ。
小林:低いのは苦手ですよ。
●二人の歌談義、クルマ談義、ゴルフ談義は続く。この対談の一部が当時のラジオ番組「平凡アワー」で流れたそうです。今でも録音が残っているならば聴いてみたいものです。
(この項、終わり)
資料:「平凡」 1960年12月号