若返る松竹映画の波紋

昭和35年(1960)の映画専門誌のコラムに、このようなタイトルで記事が掲載されています。では、何故若返らねばならなかったのか、それは嘗ての「大船調」といわれた松竹お得意のメロドラマ路線では客が呼べなくなったことにある。核となるスターが不在の状況であった松竹は不振が続いていた。一方で石原裕次郎(さん)を有する日活は小林旭(さん)、それに続く赤木圭一郎(さん)、和田浩治(さん)と、若さで破竹の勢いの進撃をしていた。そうしたことを前提として、以下の記事になったものと思われる。<以上、管理人のまえおき>

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 長い間、不振を伝えられていた松竹が、ついに行き着くところまで来てしまった。ベテラン城戸四郎社長はその責めを負うて辞任し、老舗松竹丸は、大谷博新社長をむかえて再出発する。今月はこの松竹の改変劇を中心に、日本映画の体質改善の方向を探ってみることにした。松竹の不振は日本映画全体の問題をもはらんでいるのである。

 去る4月9日に開かれた松竹の決算重役会で、城戸四郎社長が辞任、監査役の大谷博氏が5月1日から新社長として就任することになった。表面上このニュースは石原裕次郎と北原三枝の結婚発表や、高田浩吉の東映入社などスターの動きにくらべると地味でパッとしないが実はこれは重大な事件と言える性質の動きなのである。
少し話がそれるがここで現在の日本映画の状況に注目してみたい。いま日本全国には7,400館の映画館がある。ひとくちに7,400と言ってしまうと大したことはないようだが、肝心の入場者数が3.5パーセントほど減り、一方国民一人あたりの年間平均入場回数が0.6回分も少なくなっている現象とにらみ合わせて考えると7,400館という映画館の数は常識はずれとも言えるほど多いことがよくおわかりと思う。
 加えて4月1日から発足した第二東映は、東映以外の各社の勢力範囲にある映画館を徐々に食い荒らし、映画界はテレビの追い打ちをも受けて未曾有の乱戦による苦境状態にある。

 こうした時に、映画製作及び配給の総責任者たる社長を更迭することは、暴風雨のさなかで、航行中の船舶が船長をとりかえるようなものなのである。ましてや松竹は、この二、三年不振状態で、松竹ファンは次第にはなれつつある危機に直面しているとも云えるのだ。台風のど真ん中で船長を変え
るのもいいが松竹丸といぅ船はすでに老朽船だという人もいる。
 去年の八月、大谷竹次郎会長にかわって、采配を振ぅことになった城戸四郎社長は、いわゆる“新・松竹調”を堤唱、桑野みゆきや、山本豊三、三上真一郎、津川雅彦、時代劇では、田村高広、嵯峨三智子らを中心にスターの“若返り”を断行、加えて大島渚、池田博、井上和男、篠田正浩らの助監督を監督に抜擢して新風を吹き込もうとしたが、その成果が実らないうちに退陣することになってしまったというわけである。(中略)もし、松竹に石原裕次郎みたいな福の神がいればもこのような事態も起こらなかったかも知れないが、鰐淵晴子や津川雅彦ではどうにもならなかったのである。あけこれと批判する人はいるが、石原裕次郎の存在は確かに偉大であったといえよう。(中略-以後、制作が予定されている作品について論じてある)
 松竹の若返りは、こうして第二段階をむかえるわけだが、若い波派(*松竹ニューベルバーグと言われた大島渚監督、篠田正浩監督など)
新監督たちは、既成スターを余り使わず、新人を抜擢して行くという。シナリオも新人に合わせて自らが執筆、企画から製作までを一貫させるようにするという。有馬稲子、岡田茉莉子、佐田啓二、大木実、クラスのスターには余りありがたくない発言だが、その代り鰐淵晴子、吉村真理、津川雅彦を中心に、島かおり、榊ひろみ、国景子らの新人女優が桑野みゆき等とくつわを並ペるところまで叩かれて行くことが予想される。
 こうして松竹は社長以下総若返りの状態で他の五社及びテレビという強敵を相手に、再出発して行くわけだが、目標を定めたら、途中よほどのことがない張り方針を変えることなく、新人たちに自由に作品を撮らせ、新しい牙を伸ばすようにしむけることが必要である。われわれも悲壮な決心のもとに再出発するこの松竹丸が、無事に港に着けるようかげながら祈ろうではないか。やはり松竹映画が面白くならないと日本映画は総体的に面白くなって行かないのである。
 

 
当時の公開映画


[邦 画]

大学の山賊たち  (東宝) 山崎努 久保明 佐藤允 白川由美     監督/岡本喜八

娘・妻・母    
(東宝) 三益愛子 高峰秀子 原節子 団令子   監督/成瀬巳喜男

爆発娘罷り通る  (新東宝)大空真弓 高島忠夫 宇津井健      監督/近江俊郎 

お嬢さん三度笠  
(大映) 弓恵子 仁木多鶴子 宮川和子 小林勝彦   監督/安田公義

人肌呪文     (大映) 勝新太郎 宇治みさ子 小林勝彦     監督/加戸敏

歌行灯      
(大映) 市川雷蔵 山本富士子         監督/衣笠貞之助

大空の無法者   
(東映) 高倉健 佐久間良子            監督/島津昇一

酒と女と槍    (東映) 大友柳太朗 淡島千景          監督/内田吐夢

大岡政談 魔像編 (東映) 若山富三郎 市川右衛門 大川恵子    監督/河野寿一

続・次郎物語 若き日の怒り (松竹) 山本豊三 島かおり      監督/野崎正郎

いろはにほへと  (松竹) 佐田啓二 宮口精二 藤間紫       監督/中村 登

バナナ       (松竹) 津川雅彦 岡田茉莉子          監督/渋谷 実

渡り鳥いつまた帰る(日活) 小林旭 浅丘ルリ子 宍戸錠       監督/斉藤武市

青年の樹     (日活) 石原裕次郎 北原三枝 芦川いづみ    監督/舛田利雄

すっ飛び小僧    
(日活) 和田浩治 清水まゆみ          監督/西河克巳

 *上のフィルム仕様のカットは左側、上から順に人肌呪文、続・次郎物語 若き日の怒り、爆発娘罷り通る、大岡政談 魔像編、
   娘・妻・母、すっ飛び小僧

 

『渡り鳥いつまた帰る』ロケでのスナップ
アキラさんお得意の甘さたっぷりココア


『青年の樹』スタジオ撮影風景

 

[洋 画]

青い女馬    (フランス) サンドラ・ミーロ フランシス・プランシュ 監督/クロード・A・ララ

追いつめられて (イギリス) ホルスト・ブッフホルツ イヴォンヌ・ミッチェル 監督/J・リー・トムスン

狂った夜    (イタリア) ミレーヌ・ドモンジョ ローラン・テルジェア 監督/マウロ・ボロニーニ

女王様はお若い (ドイツ)  ロミー・シュナイダー クリストル・マルダイン 監督/エルンスト・マリシュカ

タイム・マシン (アメリカ) ロッド・テイラー イベット・ミメオ     監督/ジョージ・パル

カルタゴ    (イタリア) ホセ・スアレス イラリア・オッキーニ    監督/カルミネ・ガローネ

太平洋紅に染まる時 (アメリカ) ジェスムズ・キャグニー ジェイムズ・T・後藤 監督/ロバート・モンゴメリー

全部が獣だ   (フランス) ロージェ・アナン シャルル・ヴァネル  監督/ベルナール・ボルデリー

暗黒街の帝王
レッグス・ダイヤモンド (アメリカ) レイ・ダントン カーレン・スティール  監督/バット・ボーテッチャー

刑 事     (イタリア) ピエトロ・ジェルミ サーロ・ウルチ    監督/ピエトロ・ジェルミ

女      (ドイツ) ジュリエッタ・マシーナ カール・ラダッツ  監督/ヴィクトル・ヴィカス


 *上のフィルム仕様のカットは右側、上から順に全部が獣だ刑事レッグス・ダイヤモンドタイム・マシン、
   太平洋紅に染まる時、青い女馬 

資料は「画報・近代映画」昭和35年6月号より

 

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