渡り鳥シリーズ4

 「北帰行より 渡り鳥北へ帰る」のクライマックス。小林旭演じる伸次が、函館空港から飛び立つ飛行機で逃げようとする悪党と格闘するシーンに、本業の警察官役で参加したのが函館市のN.Kさん(81)だ。「俳優気分で参加した。スクリーンに映った時はうれしかったね」。表情がほころぶ。

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小林旭と共演した函館空港入口に立ち、「撮影当時とは様変わりした」と話すN.Kさん

 函館で生まれ、海軍に所属し太平洋に参加した。終戦後に帰郷し、「市民を守る仕事を」と22歳で函館市警入りした。6年ほどの交番勤務の後、パトカーに乗る無線自動車警ら係に配属され、函館方面で初めて導入された黒白ツートンのセダン型車両に乗った。当時パトカーはジープ型が主流で、セダン型は仲間から「あこがれの的」だったという。

N.Kさん    スクリーンの中でも警察官

 エキストラの要請は市観光課を通じて受けた。撮影は夜。パトカーの助手席に乗った小林旭が、さっと降りて函館空港入口へ走っていく演技を何度も繰り返した様子が目に焼き付いている。
 「アキラは背が高く、映画のイメージそのままだった。白いセーター姿が恰好良かったことが、印象に強く残っている」。現場はクライマックスならではの緊張感があり、小林旭とは結局ひと言も言葉を交わせないままだった。それでも、十数センチの近さで大スターと共演した経験は今でも大切な思い出だ。


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「北帰行より 渡り鳥北へ帰る」の函館空港での1シーン。背景は当時の空港ターミナル

 公開時、作品は職場でも話題になり、「周囲から羨望(せんぼう)の眼差しで見られたよ」と笑う。その後、野島さんは交通違反者即決裁判担当として函館の裁判所などで勤務し、58歳で定年退職した。現在も函館防犯協会の事務局を務め、地域の安全確保に励んでいる。多忙な日々の中でも、小林旭の活躍はチェックし続けてきたという。

 約37年間の警察官人生で思い出深いのは交番、パトカー勤務時代。当時、函館は北洋漁業の基地として栄え、乗組員の男たちが毎晩のように大門のキャバレーで疲れを癒し、にぎやかに飲んで騒いでいた。当然酔っ払いのいざこざも多く、その分野島さんら警察官の出動も増えた。「絶えずけんかがあるくらい活気があったっていうことかな」と振り返る。
 「ギターを持った渡り鳥」「北帰行より」でも、函館の夜のシーンでは、ネオンがまぶしい繁華街が決まって登場する。映画も街も元気だった時代の勢いが伝わってくる。

《管理人のコメント》
本職の警察官の方が映画でも本職の警察官役だったというのが当時の映画づくりが反映されていていいですね。今でいえば「コラボ」や「タイアップ」に近いのかも知れませんね。ご当地の観光促進を図る為にひと肌脱がれたのでしょうか。それにしても「十数センチ」の近さで小林旭さんと接したというのがうらやましいですね。

2008年5月23日 函館新聞 掲載

「函館新聞」新目七恵 様に感謝致します。