林旭さんの人気を不動のものとした「渡り鳥シリーズ」そのヒットの背景には、それまでの様々な蓄積があります。初期作品については当時も、あまり語られることもなかったようです。私は最近になって数本程度を衛星放送や映画館で見た程度です。そうした前提で、数少ない資料から初期作品についてのことを書かれたものを抜粋して採り上げてみました。渡り鳥が持つ抒情性は、こうした初期作品に含まれていたような気がします。映画作品ひとつひとつを結びつけて、それが一人のスターの系譜として捉えてみることもできるでしょう。こうしたこ考え方ができるのは常に第一線で活躍して来られた小林旭さんならではのものでしょう。

 ■第一期 ウエットなあいつ
タイトル
公開日
POINT

飢える魂

1956.10.31
 未亡人の母を憎みつつも愛情をよせる複雑な役柄を好演。
孤独の人
1957.1.15
 古いモラルと対立するバンカラ学生を演じる。
今日のいのち
1957.6.25
 石原裕次郎さんとの共演、下町の学生役を熱演。
殺したのは誰だ
1957.7.3
 自堕落な生活を送る学生を熱演。本格デビューとされる作品。
幕末太陽伝
1957.7.14
 日活最後の時代劇。青年武士役を好演。
青春の冒険
1957.9.3
 新たな青春スターとして注目された。下町ムードといわれた。
高校四年
1957.10.8
 超高校級投手の役を好演。後の「東京の孤独」役への先駈け?
九人の死刑囚
1957.11.12
 恋人の危機を救うために暴力と対決しなければならない青年役。
の時期までが“ウエットな時代”といわれる。中平康監督作品の『殺したのは誰だ』の演技が注目されて、この作品が本格デビューとされる。その後、ウエットな青春スターとして注目を浴びる。

 ■第二期 ひ弱なアクションスター
タイトル
公開日
POINT

白い悪魔

1958.1.22
 ベテラン俳優陣にまじって、素朴な牧場青年を好演。
夜霧の第二国道
1958.2.12
 歌とアクションの娯楽編。ハワイ生まれの謎の二世を熱演。
錆びたナイフ
1958.3.11
 石原裕次郎さんとの共演、弟役を熱演し、本格的な人気を得る。
霧の中の男
1958.4.8
 兄の復讐のために立ち上がり次々と人を殺す冷徹な役を演じる。
美しい庵主さん
1958.5.6
 浅丘ルリ子さんと初共演。芦川いづみさんに心ひかれる役。
踏みはずした春
1958.6.29
 少年院出の無軌道なハイティーンの役を演じる。
悪魔と天使の季節
1958.8.19
 悪魔と天使が同居する複雑な心理のハイティーンの役。
青い乳房
1958.9.8
 若い義母と不純な大人たちに抵抗する青年。青春スタア路線。
絶唱
1958.10.15
 大地主の息子と山番のかなわぬ恋がやがて悲劇を生む。コンビ決定。
した青春像を演じてきたアキラさんは「夜霧の第二国道」で、アクションスタアとしての位置を得て、続いての「錆びたナイフ」「霧の中の男」とアクション物が続くが、やや弱い面があり、また青春物の作品が続くこととなる。その後の「絶唱」では、その集大成ともいうべき作品となった。また、この作品は演技力が要求される重要な役でもあった。

 ■第三期 本格アクションスターへ
タイトル
公開日
POINT

完全なる遊戯

1958.11.11
 空白の時間をもてあます若いエネルギーの暴走!
嵐を呼ぶ友情
1959.1.3
 映画の中で初めて歌を歌う。「日活三悪」の中心として売り出し。
女を忘れろ
1959.1.29
 激情の恋に別れを告げて、異国に去る青年の役。後のパターンの元。
群衆の中の太陽
1959.3.18
 大学時代の4人の青年の友情と闘魂。正義と真実を追う新聞記者。
俺は挑戦する
1959.4.8
 学生プロボクサーが恋に歌に、ダイナマイトパンチを叩きつける。
二連銃の鉄
1959.4.22
 密猟船をバックに荒々しく展開する一大海洋巨編。
東京の孤独
1959.5.12
 アキラ&ジョーの野球での対決。初のライバル役として対峙。
若い豹のむれ
1959.6.9
 暴力によって視力を失われたボクサー志望の青年の役を熱演。
爆薬に火をつけろ
1959.7.5
 陰謀と暴力が渦巻く埋め立て地にマイトガイの怒りが爆発。
めて映画主題歌を歌った「嵐を呼ぶ友情」は、前年の正月映画で大ヒットした石原裕次郎さんの「嵐を呼ぶ男」の路線で作られた井上梅次監督作品。これからも予測されるように会社は、裕次郎さんに続くスタアとしてアキラさんをメインに売りだそうとしていた。この作品では、アキラさんをはじめとして、川地民夫さん、沢本忠雄さんの3人を「日活三悪」として売り出した。当時のキャッチフレーズは『狂熱のトランペットと哀愁のギターを利して、男の友情を描いた作品で、全国的に爆発的な“アキラブーム”を呼んだ』とある。また、この映画で初めて主題歌を歌った。レコードデビュー曲が「女を忘れろ」で発売は前年の1958年9月20日というのも興味深い。歌が先行して後に本編の映画が撮られた。(これを書くにあたっての資料からは「嵐を呼ぶ友情」のレコードを所有していると記されている。筆者が新聞記者という立場からマスコミ向にのみ配布されたものかも知れないが、映画の中でもこの主題歌は聴いたことがないから不思議だ。)
の時期からは毎月1本のペースで映画が撮られている。歌と映画で本格的な「歌うアクションスター」としての 地位を得て行く。そうした背景を踏まえて次の段階を注目していただきたい。

 ■第四期 渡り鳥・流れ者・旋風児シリーズへ
タイトル
公開日
POINT

南国土佐を後にして

19589.8.4
 渡り鳥シリーズが生まれるきっかけとなった作品。高知ロケ。
銀座旋風児
1959.9.20
 シリーズ物として初めて企画された。スタイリッシュな都会派。
ギターを持った渡り鳥
1959.10.11
 アクション、銃撃、ライバル、慕う人との別れ、歌。全てが揃う。
波止場の無法者
1959.11.15
 マドロス・アキラ。麻薬密輸団を相手に奮戦。珍しく結ばれる恋。
銀座旋風児 黒幕は誰だ
1959.12.6
 変装をみせる旋風児。日本開拓公団の汚職を暴く。

念すべき作品となった『南国土佐を後にして』 は、ペギー葉山さんのヒット曲です。当時、併映作品としてSP(シスター・ピクチャー)という歌謡曲をモチーフとした白黒の1時間作品が数多く制作されていた。(『西銀座駅前』フランク永井/『東京のバスガール』コロムビア・ローズ/『船方さんよ』三波春夫/他)こうした流れを受けての歌謡メロドラマとしての位置づけとされていたようだ。当初は、舛田利雄監督が予定されていたが、断ったために斉藤武市監督に代わった。しかし、アクション物が得意ではない斉藤監督としても気乗りではなかったらしい。ところが、それまでの監督作品が余りにも不入り状態が続いているために引き受けられたとか。またアキラさんも「歌謡メロの役者になったか・・・」ともらしたかどうか不満の声があったとされている。既に全国的人気となりつつあるアキラ・ブームでもあった。(ヒット曲「ダイナマイトが百五十屯」は連日のようにラジオから流れていた)ところが公開と同時に大盛況の入りとなった。

『南国土佐を後にして』は、それまでとは違うアキラさんの姿がスクリーンにあった。決してウエットではない、一度は罪を犯した者が真人間になろうとしても世間は認めてくれない辛さに耐えながら、一方で、かつての恋人を救うためとはいえ、一度だけのクールなダイスの勝負に挑む。この姿が多くの観客の心を捉えたのかも知れない。その頃の日活映画は昨年に大ヒットを飛ばした石原裕次郎さんにも人気の陰りがみえてきていた。(本格アクション映画に出なくなった裕次郎さんから観客がやや遠のいた。1959年には本格アクション作品がほとんどない。観客が求めるのは弾けるような若さの爆発だった)そこで急遽、新たなスターを作り出さねばならなかった事情もある。こうした背景を受けて「日活西部劇」が企画された。日本の股旅物と西部劇の融合が『ギターを持った渡り鳥』だった。

「渡り鳥シリーズ」誕生秘話について、小林旭さんが「渡り鳥随筆」(当時の「近代映画」連載)で書いているものがあります。 以下は、その抜粋。

 渡り鳥シリーズの歴史は、今更ボクが喋々するまでもないことだ。その誕生秘話は余り知られていない。日活お家芸の単にタイムリーな歌謡ものにするか、あるいは、これを大作に仕立てるかの二者選一に立たされた江守常務(*注=管理人:当時の日活の常務)の大英断がなかったら、恐らく一編のヒット作に止まっていただろう。江守常務の決断こそ、いまこそスクリーンに息づく滝伸次の誕生を可能にしたのだ。(中略)
 娯楽こそ映画の真髄である。大げさに云えば、この作品によって初めて、ボクの映画観がすっきりと割り切れる思いがした。「大衆、特に若い人は英雄的な人物が好きだ…社会に閉ざされた夢をこの英雄に求める」この明快な社会心理学が渡り鳥滝伸次を生み、流れ者野村浩次を生み、銀座旋風児二階堂卓也を生んだことをボクはよく知っている。

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渡り鳥・流れ者シリーズに至る経緯を簡単にまとめましたが、ほとんどが見たこともない作品なので系統だてて解説をすることはできません。ただ、当初は普通のアキラ少年だったのが、ボクサーになり、海の男となり、工事現場監督になり、世間の波にもまれ、犯罪も犯し、女も知り、やがて社会正義に目覚めるという見方はできないでしょうか? それが滝伸次であり、野村浩次でもあるという見方です。単なるうがった見方ではありますが・・・。

渡り鳥誕生の関連話はこちらにもあります。 ---->CLICK

 

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