wataridori

今でも渡り鳥の歌が聞こえてくる

 子供の頃より「渡り鳥・滝伸次」にあこがれつづけて数十年。ふり返ると私は当時、映画館で観たのは『口笛が流れる港町』『渡り鳥いつまた帰る』『赤い夕陽の渡り鳥』『波濤を越える渡り鳥』『渡り鳥北へ帰る』のみである。他は後に何度も繰り返して放送されたテレビの映画劇場でくいいるように見たものだ。
 
 当時の映画館では見終わった後も席を立ち去りがたい思いがあり、その気持ちは子供心に説明がつかない妙な気分になっていたことを憶えている。哀愁漂うラストシーンはもちろんのこと、主題歌や挿入歌に大きく影響を受けて映画を観ずとも常に主題歌や挿入歌が頭の中でぐるぐると回っている。歌の影響は凄い。

 「渡り鳥シリーズ」と並んで制作された「流れ者シリーズ」にも挿入歌の名作が多い。当時の巷ではヒット曲の「ダンチョネ節」や「ズンドコ節」が流れ、現在のようにドアが無いパチンコ屋からは「さすらい」が流れてきた。当時の名古屋のレコードベストセラーは一位が「ズンドコ節」3位が「ダンチョネ節」4位が「アキラのツーレロ節」であり、福岡では、3位「ズンドコ節」4位「アキラのツーレロ節」5位「ダンチョネ節」とある。当時で20万枚以上売れたのが「ズンドコ節」である。

 歌が重要な役割を果たす基礎となったのが、渡り鳥シリーズの原点でもある『南国土佐を後にして』。この作品は当時、ペギー葉山さんが歌い大ヒットした曲の歌謡映画として企画された。
 歌謡映画とは流行歌をモチーフにして作られた映画。ここでは日活映画のSP(シスターピクチャー)として多く制作された白黒映画を指す。例えば『どうせ拾った恋だもの』『赤いランプの終列車』『あン時ゃどしゃ降り』『東京のバスガール』『船方さんよ』『未練の波止場』(日活・1958年)etc. こうした歌謡映画は他社でも数多く手がけられていた。そうした背景を受けての『南国土佐を後にして』である。
 
 この作品は当初の企画タイトルは『ダイスの眼』とされていた。それが流行歌のタイトルを受けて手直しされ、結果として大ヒットした。見事なダイスさばきのシーンは圧巻でもある。ちなみに現在、「南国土佐を後にして」の歌碑建立のための寄付が募られています。詳細はこちらのサイト

哀愁あるアキラさんの声がシリーズを生んだ

 そうして、一方ではコロムビアレコードから既にレコードデビューしていたアキラさんは『ギターを持った渡り鳥』の主題歌を吹き込むことになる。しかし、この作品も当初の企画では石原裕次郎さんの刑事物の企画として予定されていた。既にマスコミにも宣伝されていたから明かである。ところが企画・発案者の井上梅次監督が諸事情で日活を去ることとなり、当時のプロデューサー児井氏が譲りうける。この後に井上監督は同企画をギターではなく、ボクシンググローブに代えて東宝映画で加山雄三さん主演で撮る(『東から来た男』)。

 アキラさんの映画は、やはり哀愁あるアキラさんの声質に魅力を感じる人も多い。このあたりを当時の雑誌記事から検証したい。

 Nディレクターは、児井プロデューサーのすすめもあって、その場で小林旭にそれとなくコロムビアに遊びがてら来るように申し出た。
 人気歌手小林旭の誕生は、実はこのときにさかのぼるのである。そして、小林はコロムビアへ立ち寄った。この時の服装は、メキシコ風なソンブレロを被り、ジーパンを履いて、草履をつっかけたままといういまでも語り草になっているものだった。いま流にいえば、ファンキーなスタイルといえるものだが、ともかくコロムビアの関係者は、この彼の度胸にまず驚いた。ついでマイクテスト、これでも彼はまったく臆することなく堂々と歌った。

 新人歌手は、普通ならシングル盤で売り出される。ところが、小林だけは違っていた。まず「小林旭歌のアルバム」というのが企画された。必ず人気歌手になるという確信を持たない限り、こういった大胆な商法はとれない。LPを売ることはそれほどむずかしいのである。このLPに入れられた曲は「ダイナマイトが150トン」「なくなブルース」「銀座旋風児」「癪な雨だよ」など八曲。
[資料:別冊近代映画・大草原の渡り鳥特集号 1960]より

『南国土佐を後にして』についてのエピソードをもうひとつ。当時の雑誌にはこう書いてある。

思いがけない大当たりとなった『南国土佐を後にして』だが、はじめはこの映画の監督に予定されていた舛田利雄が「歌謡映画では…」と渋ったため、斎藤監督にオハチが回ってきた。斎藤監督はアクションものは不得手だったが〝あまり興業成績が悪いので(自分のそれまでの作品のこと)気晴らしにやってみよう〟と引き受けた。小林旭にしても〝歌謡メロの役者になったか。俺は映画をやめたくなった〟と当時もらしたと伝えられているが、フタをあけてみるとこれが意外なヒット。
[資料:別冊近代映画・大暴れ風来坊特集号 1960]より

アキラは根っから"渡り鳥"的だ

上のタイトルは、流れ者シリーズ第4弾『大暴れ風来坊』を撮影中に宍戸錠さんの雑誌対談の中の見出しです。この頃の二人のコンビは飛ぶ鳥を落とす勢いで次から次へとシリーズ物を撮影中でした。まさに渡り鳥一家が全国のロケ地を巡るようなもの。当時の撮影作品をピックアップしてみましょう。この撮影本数、撮影期間は驚きです。

[1960年の公開作品] ※右端のJ は宍戸錠さん共演
・口笛が流れる港町 1月3日公開 (渡り鳥シリーズ第2弾)J
・やくざの詩    1月31日公開
・海から来た流れ者 2月28日公開 (流れ者シリーズ第1弾)J
・銀座旋風児 目撃者は彼奴だ 3月26日公開 
・渡り鳥いつまた帰る 4月28日公開(渡り鳥シリーズ第3弾)J
・海を渡る波止場の風 5月28日公開(流れ者シリーズ第2弾)J
・赤い夕陽の渡り鳥  7月2日公開 (渡り鳥シリーズ第3弾)J
・東京の暴れん坊   7月29日公開
・南海の狼火     9月3日公開 (流れ者シリーズ第3弾)J
・大草原の渡り鳥   10月2日公開 (渡り鳥シリーズ第4弾)J
・大暴れ風来坊    11月16日公開 (流れ者シリーズ第4弾)J
・都会の空の用心棒  12月7日公開

そして、1961年正月映画として『波濤を越える渡り鳥』の公開

この雑誌対談の一部に撮影の苦労話として以下のようなくだりがあって興味深い。

宍戸:しかし最初はテレてたね、アキラも・・・。

小林:いくらなんでも最初はね。「ギターを持った渡り鳥」ン時なんか全然見当がつきやしねえよ、最初は・・・。それゃあ、それまでにも似たようなアクションものもやってたけどさ、なにしろ世界的スケールの活劇作りだそうって寸法なんだから大変だ。しかしテレると絶対に駄目。ラッシュを見ると、テレてることがわかっちゃうんだな、これが。

宍戸:スクリーンに偽りなしか。

小林:だからこれはイカンと思って、斎藤武市先生ともとっくり相談してさ。「口笛が流れる港町」のころからはもう大した抵抗はなくなっちまったんだな、これが。

宍戸:カンナン汝を玉にす、か。

小林:それは錠サンも同じこと。どうやって面白味を出そうかと・・・。

宍戸:(シンミリと)お互いに苦労したもんな(笑)

小林:ホント、ホント。







二人の対談は続きますが、この頃の二人の共演は「渡り鳥・流れ者」シリーズが集中している。そうした中でお二人のさまざまな演出の工夫が想定されます。つづきをどうぞ・・・

宍戸:ところでここらでアキラの人物評をやろうじゃねえか。

小林:さあ、どうぞ。

宍戸:要するにだ。

小林:イヤな奴だ(笑)

宍戸:そう、イヤな奴だ(笑)、という人もいるかもしれん。しかしここで声を大にして弁護するとだ。

小林:文学青年が弁護士になった。

宍戸:被告はダマってろ(笑) アキラは強いし、悪くいえば人に誤解されやすい。大体スタアってものを色眼鏡で見すぎるんだ、まわりが・・・。

小林:(まじめにうなずく)

宍戸:俺も最初は一寸イケスカないと思わんでもなかった(笑)

小林:最初は錠サンは少しおっかなかったな。何と言っても撮影所じゃ先輩だったし・・・。

宍戸:しかしだ。俺はすぐその間違いに気がついたんだ。つまりアキラってのは人一倍純粋なんだよな、意外に。

小林:意外には余計だなあ。

宍戸:つまり生一本のところがある。ところが一皮むけばこんないい男は滅多にいない。

小林:錠サンを除いてはナ、とお世辞をひとつ。

宍戸:そうだ(笑)ここでてめえをPRしちゃいけねえな。

小林:弁護人がんばれ。

宍戸:といわれて買収されるわけじゃないが、人間は何かちゃんとしたシンがなくちゃいけない。それが一部では非妥協的に見られるかも知れないけど、といって別に人を妨害するわけでもないし、迷惑をおよぼすことはないんだからな。

小林:しかし、全くそうですね。錠サンだって似たようなところがある。大体はね、渡り鳥とか流れ者が成功したのは、この映画の主人公や殺し屋にもそういう何か一本気なところがあって、それが俺たちの性格と何かウマが合うんだな、そこにうまく行った原因があると思うな。

宍戸:アキラにしちゃあ意外にアカデミックな解釈をするじゃねえか(笑)しかしそれは本当だね。だから俺たちはいつも魅力ある俳優になるには、まず魅力ある人間にならなくちゃいけねえっていうんだ。

小林:たとえばチャンユー(裕次郎)みたいにね。

宍戸:トニイ(赤木)だってヒデ坊(和田)だってそうだよ。いい加減な人間じゃ画(え)にもサマにならないよ。

二人の話は続きます。  「別冊 近代映画 大暴れ風来坊 特集号」1960年より抜粋

sketch01.jpg

日活映画

sketch03.jpg

日活映画

sketch04.jpg

日活映画

sketch02.jpg

日活映画

sketch05.jpg

日活映画