<前説>
「渡り鳥シリーズ」「流れ者シリーズ」のクレジットに必ず登場するお二人の名前。
原作者・原健三郎、企画・児井英生。このお二人は早稲田大学時代の同期生ということから仲の良い友人であった。原作者の原氏は当時、自由民主党の広報委員長。かたや児井氏は、石原裕次郎さんの大ヒット映画『嵐を呼ぶ男』の名プロデューサー。また、氏は小林旭さんの『南国土佐を後にして』以来、ほとんどの作品に関わって来られた(これらの詳細については、「活動屋 児井英生」永井健児著・フィルムアート社刊/「伝・日本映画の黄金時代」児井英生著などに詳しく書かれています)。お二方は既に故人ですが、在りし日に、小林旭さんのスター性について語られた対談をお届けします。


長期シリーズの人気者に!

児井 僕たちの学生時代はよく映画を見に行ったね。

原  夢中で小屋へ通ったりしたものだ。

児井 二十年、いや二十五年くらい前の話だが・・・。(*1935年〜1940年頃か?)

原  その頃からゲーリー・クーパー(*注1)は有名だった。

児井 相手役が若い女優と変わるだけで、主人公はずっと一緒なんだからすごい。

原  クーパーは、30年も第一線に立ってやっている。芸が生きているから、そういうこともできるわけだ。
   
小林旭もクーパーのようにしようじゃないか。

児井 そのつもりだ。
     江守常務(
*当時の日活の常務)もそういってる。

原  
映画は楽しいね。

児井 趣味の映画が本職になってしまって・・・(笑)。 

原  僕は初めから政経志望だったんだ。
     そして政治家になったわけだが・・・

児井 映画の原作を書く方でも有名になってしまった(笑)

 児井英生氏

原  エテして本職はダメで趣味のほうが良い・・・というものだが僕もその例かも知れない。
    政治家としてよりも、むしろ、映画の原作を書くというので有名になったみたいだ
(笑)

児井 僕らが見た映画は、主として外国映画だったね。

原  あの頃の学生は、今と違って外国映画をよく見たな。

児井 『モロッコ』とか『パリの屋根の下』・・・。

原  思い出すとなつかしいね。

児井 ルネ・クレールとか、ジョン・フォード、それとヒチコックとか・・・。みんな優れた監督だった。

原  古いな。今の人には判らないような作品を、夢中になって見たものだ。

児井 『モロッコ』なんか、みんなすごく感激して見てたね。

原  モロッコの外人部隊にクーパーがいる。
     そして、ディートリッヒがハダシでクーパーを追うところなんか、良かったな。

児井 終戦直後、若い女の子があれを見て笑い出した、という話がある。(笑)

原  僕らはあすこで泣いたもんだが・・・。(笑)

児井 やはり時間の相違というヤツだな。結局、そのころの趣味が本職になっちゃった。

原  こっちは思い通りに政治家になったが・・・。
     しかし、やはり趣味は捨てきれない、というところだ。

児井 送金直前は、よくピンチになって、映画を見られぬこともあったよ。(笑)

原  僕は下宿住まいだったが・・・。送金がよかったので、うまく見られた。(笑)
    金がなくなると、電報を打って送金してもらい、映画館がよいをした。(笑)

児井 シナリオは、その頃から書いていたの?

原  いや、学生時代はぜんぜん書かなかった。アメリカで西部劇をよく見たが・・・。
     そのことを雑誌に書かれて弱ったよ。あいつは活動(*映画の事)ばかり見て少しも勉強しない。

児井 しかし、その頃の映画の勉強がいま役にたっている。(笑)

原  まったくその通り。(笑)あのころのクーパーは若かったが、日本でもイキの長い男女優を作りたいね。

児井 小林旭なんかもそういうスタアにしたいものだ。
    日本の女優では山田五十鈴、水谷八重子、田中絹代なんかイキが長い。

 

 


原健三郎氏


日活映画の二つの美点!

原  アメリカあたりでは、昔から海外ロケを大いにやっていた。
    これは国力の現れなんだね。日本もアメリカに負けず、海外ロケも大いにやっ
    
て、世界に輸出すべきだと思う。

児井 その通りだね。

原  僕は『新しき土』(*注2)をベルリンで見たが・・・。
     とても懐かしかったことを憶えている。

児井 原節子が純情可憐だった。

原  僕は忙しい身体だが、メシを食うヒマに映画を見るという主義だ。(笑)

児井 そいうお客ばかりだと有り難いが・・・。(笑)

原  衆議院の女の子が、券をくれという。そして、小林旭の作品を見に行く。
     満員だったとか。面白かったとしか感想を言わぬが、みんな楽しく見て
     いるようだ。

児井 あなたに原作を書いてもらう場合・・・。細かい筋書きはいらない。
     大きな狙いだけ欲しい。専門的な映画手法、例えばここをアップにしてとか、
     あすこをロングにしてなどという細かい点はいらないのですよ。

原 それは判るな。

児井 小林旭のスーパーマンぶりが、よく描かれているかどうかという点が必要な
     んです。つまり、ポパイ的な人物なんだな、小林旭は・・・・。

原  今の人は、忙しいから、じっくり文芸映画を見ているヒマがないからね。

児井 そう、その点をハッキリ区別する必要があるんだな。アメリカなんかは、
    
世界情勢を見ながら映画を作っていますよ。
    
二グロ(*原文のまま)が見ても、エスキモーが見ても正邪の区別がつく。
    言葉が判らなくても人物の動きを見ればわかるんですね。
     そして、アメリカのいい面が必ず入っている 。

原  
うん、PRが実にうまいね。

児井 守備隊が全滅するシーンでも国旗がハタハタと旗めいたりしてね。
    
映画のラストシーンがそれでピリッとする。

原  文芸映画は少数の人のためのものだ。どうしても、大衆相手のものにしなけ
     ればならない。

児井 どんな場合でも大衆を忘れてはならない。大勢の人々に喜ばれるものでなけ
     ればいけないと思う。

原  その大衆に喜ばれる映画を作っている日活には、二つのいいことがある。
    一つは、日活が隆盛の会社だということです。意気ケンコウとしていて、
     社員も怠ける者が一人もいない。 これはハタから見ていても実に気持ちが
     いい。ハツラツとしてるんだな。
    二つ目は・・・、上から下までチームワークがよくとれていること。
     一人でもイバッたりする人
間がいてはダメなんだ。

児井 映画は総合芸術だから、決して一人の人間で出来るものじゃない。大勢の人
     の手を経なければならないから・・・。

原  そのことは観念的には判っている。とかく上手くいかないものなのに、よく
     やっている。と感心する。

児井 ロケで磐梯山に行った時、みんなが同じベントウを食べている、といって原
     さんは驚いていたが
・・・
     日活はそういう会社なんですよ。太洋の三原監督(*注/当時の球団、大洋
     ホエールズ
)と日活の江守常務はよく似ているんですよ。
     日活
は契約制度です。どんなスタアでも、悪ければ一年でダメになってしまう。
     大洋の場合、ナイン以外、ベンチに二十五人もいます。三原監督は、これをフル
     に使っている。日活はそれと同じわけです。
     ところが明治大学は二十一人ぐらい使っている。しかし統率者がいけない。手綱
    をしっかり持つ人が必要なのだ。

原  
日活がオリベン(*折り詰めベントウ)で、池田内閣*当時の内閣はライスカ
     レーだ。(笑)

児井 ムギメシは?(笑)
    (*当時の池田首相の発言「貧乏人は麦メシを食べなさい」の意味をさす)

原  看板を塗り替えて、ライスカレーにしたわけだ。(笑)

児井 僕らのクラス会を大隈会館でやっている。会費は三百円。
     それでビールが一本つく。持っている人が寄付するから・・・。(笑)

原  待合で宴会するのに比べたらライスカレーでやろう、という精神が池田内閣なん
    
だ。三百円のライスカレーじゃ高いという声もあるが、これは論外。
     それでは、池田さんに自動車に乗るな、ということになる。

高音の魅力歌手としてもイケる

児井
 
話が飛んじゃったが・・・。旭の次回作品は鳴門海峡を舞台にするつもりだ。(*どの作品?企画だおれ?)

原  それはいい。淡路島が僕の選挙区だから言うんじゃないけれど・・・。(笑)

児井 マリリンモンロー主演の『ナイヤガラ』とか『帰らざる河』なども大自然をバックにしている。

原  それと同じだね。雄大な自然をバックに、旭を活躍させるのは良い。

児井 山崎巌シナリオ・ライターそれに山崎徳次郎監督と僕の三人が、鹿児島ロケの帰りに鳴門を見た。
    三月頃からやろうという話だった。

原  旭は今、北海道ロケ?

児井 そう、医者と一緒に行っているんですよ。
    (*『大草原の渡り鳥』ロケで阿寒湖周辺に向けて出発)

原  スーパーマンも病気になるんだね。(笑)

児井 なにしろガンバリ屋でね。医者が旭を馬に乗せるな、というんだけど・・・。
     つまり、フキカエでやれというが、
旭は自分でやるといって承知しない。
    二階からでも平気で飛び降りるんだ。

原  そんなところが旭の魅力なんだな。

児井 旭の魅力はまだまだ掘り出せる。

原  魅力というのは人柄なんだね、政治家でもそうだ。殊に演技をやる人間は、
    
その魅力が一挙手、一投足に現れる。旭の動きが青少年にピッタリ向くんだな。
    彼の身体からなんとなしに発散するのが“青春の匂い” とでもいうんだろうか・・・。

児井 新鮮な味なんだ。 数年前、皇太子をモデルにした『孤独の人』で津川雅彦を売り出した。
    その友人の一人(タチ役)を旭が演じたわけです。
     学校に反抗して、最後に学校に負ける・・・というストーリーだったが、
    
そのときの旭がイケるというわけで、以来、ドンドン出てきた。
    
“三悪” の一人になったりして・・・。

原  映画館の写真を見ると、顔をしかめて、サア行くぞ、というような場面がある。
    あれが良いんだろうね。また彼の歌も魅力があるね。

児井 歌もいい。歌が上手くても魅力に乏しい人がある。
     しかし、旭はいい。三橋美智也に匹敵すると思う。
    大体、歌で長続きするのは、高音の人に多い。低音は伸びきれないものだ。
     小林旭だったら、映画をやめても歌手としてやっていける。

原  むずかしいもんだね。そういえば守屋浩(*当時のコロムビア所属人気歌手)なんか
     変な声だけれど、何度も聴いてるうちに味が出てくる。(笑)

児井 あれは奇妙キテレツな高音だ。(笑) 
     しかし、自分が充実していれば、高音が良い。伸びる率が大きい。
    今度、コロムビアがビルを建てる。小林旭が四本柱の一本になっている。

原  儲かっているんだろうね。

児井 歌手が大きくなるためには映画とレコードの両方に備えることだ。

原  映画で当てたのは何かね?

児井 『湯の町エレジー』も僕がプロデュースしたが、レコードが四十五万も売れた。
    最近の旭のものでは「ズンドコ」とか「ダンチョネ」がすごく売れた。
     大体、二、三十万かな。

原  二、三十万も売れるの・・・。すごいもんだ。
   (*当時は再生の為の電機蓄音機<プレーヤー>の普及も少なかった)

児井 柳の下に何匹もドジョウはいない・・・というが(笑)小林旭の場合は何匹もいるんだな。
    歌と人柄の魅力、それに身体がよい。拳闘、馬・・・・スポーツならなんでも来いというわけだ。
    いま考えているのは・・・旭に空手をやらせる。手ばかりじゃない。
    
足も使っての踊りスタイルで歌いながらやろうというのだ。

原  スポーツ神経が発達してるんだね。
    また、映画でやっているから、歌も三割方よけいに売れるというわけだ。
    大衆に受けるのも当然だよ。

 

小林旭よ結婚するな

児井 “流れ者”や“渡り鳥”ものは、背景が良いから客もつく。

原  それにカラーだから、よけい良い。地方のカラーを活かしていけるわけだ。

児井 宇和島で『南海の狼火』をやった。それで、松山がまた呼んでくれた。
    
土地の絵はがきに載っている風光明媚な所を全部撮す。
    
宮崎や大島など、ロケに行ったところは、どこもみんな大入り満員だった。
    
ホテルなんかもお客を断る始末だった。

原  小林が泊まったところに新婚旅行しよう、なんてことも考えている人がある。(笑)

児井 新潟の“オケサ”を映画に入れたんだが、エキストラもよく揃う
     バスの車掌さん、料理屋の女中さんなんか、みんな歌えて踊れて・・・。

原  それは便利だ。(笑)映画で歌も聴かれるし、踊りも見られる。
     おまけに景色が良いんだから、楽しいはずだよ。
    小林は細いズボンをはいているね。昔の車引きみたいなヤツ・・・。
    あれは小林から流行ったのと違うかね。銀座なんかでも、ああいうのが大流行だ。

児井 地方の小屋へ行くと、舞台アイサツがある。
     一回目はタダでやるわけだが、二回目は小屋から金をもらう。
    ファンは旭が歌わないと承知しない。小林は義侠心があるから歌うが・・・。

原  そういう人間なら伸びる。小林はもっともっと伸びるな。

児井 小林は、変わったものをやらして下さい。と江守常務に言ったが・・・。
     常務から
“渡り鳥”を三十年やるんだ、と怒られた。

原  それなら僕も三十年、書き続けるよ。代議士落ちたら、日活に移るよ。(笑)
    僕は小林に、もっとスーパーマン的にやれ、と言いたい。
    ケガしたり、ハーハーとうめいたりするが、それはやらない方がいい。

    またカードやサイコロだが、あれはちょっと後味が悪いね。

児井 彼は現代の若い忠治、次郎長なんだ。

原  それから小林は結婚しない方がいい。多くのファンのためにベトベトするな、と言いたい。
    清潔な精神と身体で大いに青春美を発揮してもらいたい。

児井 結婚するならサラリーマンになってからしろ、と言うんですよ。

原  大衆を魅了するために結婚はしない方がいい。旭は二十歳か二十一歳かな。

児井 まだ二十三、四だ。日本の人口は八千万だ。一億六千万の目でにらまれているんだから、
    結婚はサラリーマンになってからしてもらいたい。

原  若い男女のアイドルなんだから・・・。

児井 彼には男の客も多い。打ち込みは九時だが、その割引を狙って客が並ぶ。心のうつろな人とか、
    お金の少ないファンが多いのです。
    また地方にお客が多い。歌も地方で受ける。この点が小林の徳なところだ。

原  池田さんの人気は、庶民のための政治をうたっている点だ。地方遊説で、その根がしっかりと
    下りてゆく。地方から全国的に伸びてゆける。

児井 映画でも歌でも地方から伸びてゆくのが強い。小林はその点、実に強い。
    小林が地方の映画館でアイサツするのは地方遊説みたいなもんです。(笑)

原  『海から来た流れ者』を僕は地方の小屋で見た。映画館は十時に開くんだが、その前からすでに
    長蛇の列でおどろいた。早く開けろというわけで、巡査まで出てきましたよ。(笑)
    四回見たという人もいる。

児井 そういうファンは全く有り難い。(笑)

原  浅丘ルリ子は目が大きい。小林は目が小さいね。
     あれが良いのかな? ウン、象の目と言った感じ・・・。(笑)

児井 それはおもしろい表現だね・・・。(笑)

  さっき、児井さんは旭のファンは心のうつろな人、お金の少ない人と言ったが・・・。
    そういう人に愛される小林旭は、やはり大衆の心を掴んでいるといえるね。

児井 都会的に偏らず、映画、レコード、ラジオで受ける点が強い。
    大体、流行歌なども最初から東京で流行するというのは少ないのです。
    地方、殊に関西方面から段々伸びて来て、それがいつのまにか東京にやって来るんです。
    小さな波紋がだんだん大きく広がるように・・・。

  明日、池田さんに言ってやろう。小林旭みたいに大衆の心を掴みなさい、と・・・。


*原健三郎氏の原作とは、正確にはシリーズの原案のこと。  出典:別冊 近代映画 大草原の渡り鳥 特集号 

<文章中の注>

注1:ゲーリー・クーパー 
  1901年モンタナ生まれ ハリウッドの二枚目スター。初期の甘いマスクから初老の頃まで多彩な役柄で活躍。
  主要作品:「モロッコ」「平原児」「ヨーク軍曹」「打撃王」「誰がために鐘は鳴る 」「真昼の決闘」など 

注2:「新しき土」(1937) 
  日本初の国際合作映画。ドイツとの合作。監督は、伊丹万作とアーノルド・ファンクの共同。
   出演:小杉勇、原節子  伊丹
作の意図が伝わらず、作品的評価は低い。
  


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