無国籍アクション映画花ざかり



以下は、昭和36年(1961)6月発行の「近代映画・6月号臨時増刊・日活西部劇読本」から抜粋したものです。なお、このページは以前に掲載したものを再編集したものです。


 国籍不明の日活西部劇。
 実は国籍不明のシロモノが、邦画界にバカあたりにあたっている。
 この日活に刺激されてか、東映、新東宝、東宝などが、やつぎ早に西部劇調のアクション作品を製作開始している。 
 まず東映を見ると、片岡千恵蔵御大主演の“アマゾンの大魔王”である。もっともこの作品が日活に対して云々というのは少し行きすぎかも知れないが、千恵蔵御大主演のアクションは、旭に対抗できるという自信たっぷりに東映は考えているようだ。 
 また、日活アクションに正面切っているのが、千葉真一、曽根晴美の風来坊探偵コンビである。第一回作として“赤い谷の惨劇”を製作しているが、今後シリーズとするたてまえになっている。


(※管理人注:第一回とあるのは“ニュー東映” の第1回作品であり、設定としては、旭さんと錠さんのコンビを意識したのは誰が考えても明らか。 後にも1本作られている。
「アマゾンの大魔王」は『アマゾン無宿 世紀の大魔王』に改題)


 その他、西部劇には入らないまでも、鶴田浩二の“地獄に真紅な花が咲く”があり、三国連太郎、高倉健、江原慎二郎などを起用して、東映アクションのカラーを生み出そうとやっきになっている。余談だが、千恵蔵御大のピストルものは、日本の草分けとして東映では誇りとしており、今後に充分期待ができるようだ。


(※管理人注:最終的には成功したとは言い難い。『東京ギャング対香港ギャング』 で、それは終わりをつげ、任侠物や“網走番外地シリーズ”の成功まで待たなければならない)


 新東宝に目を移すと、これまた日活を目標にアクションものが製作されている。 
 それは下村堯二監督第一回作品の“荒原の掠奪者”であるが、下村氏は「日活が作っている一連の無国籍映画は、とにかく面白い。不況といわれる映画界にあって、これらの作品がヒットしている理由がよく分かる。だから、色々と研究して、その面白さをふんだんに採り入れた」と語っているように、アクションのすべて盛り込んだ作品に仕立てている。 しかも舞台を蒙古(現在中国)に置き、宇津井健と松原緑郎のコンビを作り、新東宝製作陣が結集して、この一作の成功に努力しているようだ。そして、もしこれがうまくいけば、次々と連続に製作して、新東宝の今後の方針を決めようというところまで話が進んでいる。
(※管理人注:この直後、1961年8月に新東宝は倒産し、上記の企画は全て無くなった。従って荒原の掠奪者』が公開されたかは不明。)※追記:「日本映画大全集」(キネ旬刊)によると、同年に公開されていた。宇津井健、万里昌代出演。


 次に東宝があげられるが、東宝には以前から東宝アクションのカラーとして立派なものがあったと思う。例えば三船敏郎、三橋達也などの主演作品である。しかし、夏木陽介、佐藤充、加山雄三の新人が登場してからは、なんとなく日活に刺激されたアクションが多くなってきている。 
 岡本喜八監督と加山雄三のコンビで作られた“顔役暁に死す”などでは、「宍戸錠に迫るガンさばき」とか、 絶えず日活を相手どったことだけに終始している。もちろん、岡本監督の独特なタッチとスピーディなアクションになっているが・・・。「アクション王国日活に捨て身で殴り込め!」というのが、邦画アクション界の合言葉のようになっている昨今だ。 しかし、国籍不明の日活西部劇には、まだ追いつけそうにもないというのが、関係者の見通しである。もし日活を追い越すには、その会社のいままでのものを全部すてて、しかも奇抜さが打ち出さなければならない、という見方が多いようだ。

顔役暁に死す
顔役暁に死す


●左の「封切予定一覧表」は昭和36年(1961)当時の邦画の封切予定表です。実際に公開されたものとは違う部分もありますが、邦画6社の正月5週から2月4週までの予定表です。その中から「無国籍アクション」に影響されたものを赤枠で印をつけてみました。
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