《日活映画》昭和34年3月号より

 昭和34年、渡り鳥が飛んで来た年です。それ以前、人気上昇中の小林旭さんには多くのファンレターが届いていました。その中でも以下の一通は特に変わったものとして紹介します。以下の文章は上記の通りに当時、日活映画ファンに販売されていた雑誌《日活映画》からの抜粋です。このページには、石原裕次郎さんと、以下の小林旭さんへのファンレターが掲載されています。ここでは、このサイトの趣旨から小林旭さんあてのもののみとりあげます。石原裕次郎さんあてのものの内容は少しミステリーじみた内容であったことのみお知らせしておきます。 


 

 「絶唱」と嵐を呼ぶ友情」で、小林旭の人気はすっかり全国的なものとなった。不敵な強さの中に甘さのただよう男らしさ!それと近代的なスマートさも身につけている。それにもまして、これ全身が、燃ゆるような若さにハチ切れているのが、若いファンを夢中にさせている。殊に、十代の女性層の間に新しいマスコット的な存在となっている。ファンレターだけでは、もどかしくなって、直々に面接を求めて、押しかける女性ファンがめっきりとふえて来た。近頃レコードに唄を吹込んだりしてから更にこの傾向が強く、どうやら今年からアキラ・ブームになりそうだ。
そこで、この手紙の娘さんだが、ちょっと思い切って風変わりなもので、又これくらい真情をムキ出しにしたものも少ない。最初は、ありきたりのファンレターであったのが、次第に度を超してきて、次の文面の次第とは相成った・・・というわけであります。

 旭さんよ、あんたは必ずのびる人だと思っっていたが、やっぱすそんとりだったす。どうすてかというと、私は花はずかすい十才位からずっとバクロの父ッつあまについて、馬っこの目ききすてた貴いタイケンがあるので、そんで、ヅンバリと当たる。これでも高校さめでたく卒業すて、ずっと、家業の手伝をすてるんだが、も早や番茶の年頃も通り過ぎて、満二十二才の春や春だすもんな。降るほど縁談はあるども、インテリ女性に馬糞くさいバクロ衆は向かない、小説や映画にもよくある悲劇のタネつくりみたいなもんだ。
 おまけに、私の顔というのが浅丘ルリちゃんさそっくり以上とさわがれてるもんだから村の若い男がウルサクて、うっかり一人歩きも出来ない運命です。そこで、この世の男性のあこがれのマトである私と、私が見込んだ旭さんとが一緒になれば、誰がみても似合いじやなかろうかと、ひと、晩中考えぬいたわけです。
 あなたは、私より一つ年が若いはずだが、それがトテモえゝすよ。仲よく出来ること受合
いだ。どんだけ甘えても、少しぐれえ浮気すても自由だ。嫁っこもらうならスロートがえかろうと思うけど、もす、ダメなら恋人の間柄でもガマンするカクゴは出来てるからに御安心下さいよ。もすも、それでもいけぬなら、どうすべえか。残るは、女中っこよりなかんべざ。いやだども、
   
 愛す旭さんと、同じ家さ住めるなら何事も渾命と眼をつぶるべ。これほどはっきり白状すたんだし、返事はお会いの上で、お聞かせ下さい。もつろん右三つのうち一つのどれかにきめておいて下さいよ。この手紙は、書こう書こうと考え出すてから、トツオイツ約三週間もかゝっていることを忘れちゃいやですよ。
 では、この清く美しい純愛のロマンス物語の二人が、晴れて東京でめぐり会ぅ日をたのすみに、これから晴衣のドレスを町まで見に行くつもりです。それにカンジンの汽車賃と父ッつあまにウンと承知させる大仕事があります。とてもとてもいそがすくなりました。あなたも胸がオドるべさ。

 ざっと以上の通りだが、この文章でも察しがつくように、東北方面の娘さんが書いてよこしたものである。さて、この娘さんが自信たっぷりと、東京世田谷等々力にある小林宅へ現れたのは、その手紙が来てから、約一ヶ月位してからだった。当の小林旭はロケで留守だからと断ると、ロケから帰るまで待つんだと、玄関のジュータンにぺったりと座り込んで動かない。弱りぬいた家人は、近くの交番からお巡りさんに来てもらって、説得してもらったが、第三者の介入すべき問題ではない、私と旭さんに関する微妙な問題です。証拠はここにチャンとあります----と、この前出した手紙の控えをお守り札みたいに取り出して、オイオイ声を出して泣き出す始末に、どうにも手がつけられず、とうとう家出人保護の名目で警察のご厄介になったということだ。


<管理人コメント>以上から、当時は会社側がアキラさんを売りだそうとしてたいことが明白ですね。この号で紹介されている映画は、『群衆の中の太陽』です。(ちなみに裕次郎さんは『今日に生きる』の紹介)また、別ページでは、この映画の出演者による対談があります(小林旭さん、小高雄二さん、葉山良二さん、沢本忠雄さんの4人)。レコードでは既に“ダイナマイトが150屯”でヒットを飛ばしています。そして、この年に颯爽と《渡り鳥》が飛んで来るのです。