昭和36年(1961)夏
3人は熱く語った。

スキー事故で負傷していた裕次郎さんがカムバックで、俄然活気づいた日活は、
秋にあいつぐ海外ロケ作品で、日本映画界に新たな話題をふりまく。
10月12日、裕次郎さんのエジプト行きを皮切りに、11月は錠さんがメキシコへ、
アキラさんはアラスカへ飛び立つ予定。既に裕次郎さんはヨーロッパへ2度、
アキラさんは東南アジアでロケをした経験がある。国際的スケールの3人がここに熱く語った。
 
 
 

 
 復帰第1作『あいつと私』を撮影中の裕次郎さんを真ん中に、『大森林に向かって立つ』 のクランクイン前夜の旭さんと、『ノサップの銃』を撮りあげて、前々日北海道から帰京したばかりの錠さん。3人が8月23日の夜、世田谷の裕次郎さんの邸に集まった。

 ロケの準備で忙しい旭さんの姿はまだ見えず、裕次郎さんと錠さんの二人でおしゃべりが始まった。

 

裕ちゃんの“エジプト珍道中”

裕次郎 どう、寒いの根室は?(『ノサップの銃』のロケをさす)

 寒い寒い、東京じゃあ信じられないね。だけど景気いいの。鮭マス景気。みんな札束こんなに(と腹掛けをふくらませる格好をして) もっちゃって。(笑)あれじゃモテませんよ。われわれは・・・。

裕次郎 ところでメシは?

 いや結構。それより調子はぐっと・・・。

裕次郎 元気だヨ。でも昨日病院で、ちょっぴりおどかされちゃったけどな。

 仕事が9時から5時まででピッタリ終りゃいいんだが・・・。

裕次郎 3時で終ったのが一日だけで、あとは夜間夜間さ。それと、嵐のシーンで濡れちゃってねえ・・・。でも足に綿巻いてて、ずいぶん助かったよ。
 ほら、いづみちゃん(芦川いづみ)担いで・走るシーンあるだろう。彼女が13貫(*約48.75kg)、俺が20貫(*約70kg)・・・。

 4貫目くらいのいづみちゃんを作らなくちゃ・・・(笑)。

裕次郎 あ、何か飲まない? ウィスキーかブランデー・・・(と立ち上がろうとすると・・)

 そう動くなよ、オーイ!(おどけながらも裕ちゃんをかばって女中さんを呼ぶ)

裕次郎 『ノサップの銃』のラッシュ(末編集フィルム)見たやつが、ジョーさんの馬はアメリカ人よりうまいってさ。

 もっともっと! 裸馬にとび乗って、馬がひっくり返っても俺は落ちないんだから、コザックだよ。(笑)

裕次郎 ボリショイ・サーカスがお迎えにくるぜこれは。(笑)けど北海道や大島でなく、海外へ行って本格的にやるテだな。

 インディアンやったら喰いっぱぐれない。 フワァッ(と奇声をあげてテレる)

裕次郎
 スタイルはいいし、タッパ(身長)はあるし。ランカスター・プロあたりでスカウトしに来るぜ。東洋のカウボーイてんで。(笑)着る物だけ用意すれば、そのままメキシコへ行けるな。

 ところで裕ちゃん、エジプトへはいつ?

裕次郎 10月12日出発。喜劇にしようという話もあるから、せいぜい面白い珍道中ものを撮ろうかと思っているんだ。

 エジプト珍道中(ロード・トゥ・エジプト)か、そいつはいい。
女の人がこうやってさ・・・(とベールで顔を隠すまねをする)

裕次郎 そっちのメキシコは絵になるぜ。みんな毛色の変わったのばかりだから・・・。

 じゃあメキシコへ愛馬を連れて行くか。天気がいいんだってね、向こうは。

裕次郎 エジプトなんか一年に一回ぐらいしか降らない。だから天井のない家がいっぱいあるんだって。(笑)今年の暑さの最高が48度、自動車のバンパーで卵が焼けるんだってから・・・。

 パンパー・エッグ(爆笑)

“価値のない男”のメキシコ・ジョー

 裕次郎さんと錠さんが(笑)の真っ最中、待ちかねた旭さんがとびこんできて、ダイヤモンド・トリオの顔合わせになった。

 やあ!

裕次郎 おお!

 アタマ刈っちゃったの?

 うるさいんだよ、朝起きるとうしろの毛がこんなに・・・(とクシャクシャになる格好をする)

 そうだな。オレも伸びてくるとテメエでちょこちょこやっちまう。

裕次郎 何か飲む?

 コカ・コーラ。裕ちゃんはエジプト、ミスター錠はメキシコだったな。俺がいちばんドサまわりだ。(笑)

裕次郎 アラスカは寒いぜ。夏でも朝早けりゃ暖房がいるんだから。

 だけど、魚釣れるぞ。

 じゃあ釣り竿と鉄砲持ってくか。熊でもなんでもバンスカ、バンスカやってくるよ。

 いや、熊はアラスカ警備隊の許可もらわないと射てないらしいぜ。

 熊なんか射たない、こっちが熊に生け捕られちゃう。(笑)

裕次郎 木を伐りに行く連中が途中でこってり遭うんだ。

 ヒグマみたいなやつ。茶色くて、ゴーシャってのがいたじゃない。ボリショイ・サーカスにさ。(笑)

 エジプトの女優も使うんだって?

裕次郎 あのへんの女は、だいたいきれいなんだ。色が浅黒くってね。

 クレオパトラみたいな。(笑)

 三船敏郎さんが、『価値ある男』(*1961東宝)でメキシコへ行ったけど、わりかし美人がいないそうじゃないか。

 いいよいいよ、オレは価値ない男なんだから。(笑)


“アラスカ野郎”のアキラです

 いっぺんみんないっしょに何か撮りたいね。

裕次郎 そりゃムリだ。ジジイにならないとやらしてくれないよ。(笑)

 いや、オールスターじゃなくて、チャンユウとオレとか、二人ずつでさ。

裕次郎 だって三人いっしょに出るやつ撮ったら、わあっと来て小屋がハレツしちゃう。

 裕ちゃんの『ナイルの決闘』はエジプトだけで、キリマンジャロはあと?

裕次郎 エジプトだけでも十分撮り切れないよ。むこうは広いんだから、一カ所にじっくり腰を落ちつけたほうがいい。

 オレはアラスカの木樵りだな。背中に縄背負って・・・。

 ヒイヒイイッて登ってくんだ。(笑)アキラの“アラスカ野郎”オッ語呂が合っちゃう、イカスぜ!

 “ジョーのメキシコ野郎”もいいよ。それぞれ性格に合っててさ。(笑)だけどチャンユウのエジプトってのはどう?ニューヨークの感じだな。

裕次郎 ニューヨークじや絵にならない。(笑)エジプトはいいよ。回教の国だから、日本は日出ずる国として尊敬されてるんだ。ところが回教徒は土下座して拝む時間があるだろう?そのとき、テメエの靴を横へ脱いどくとカッパラわれちゃうから、かならず自分の前へ置く。(笑)それでもなくなることがあるってんだから、さすがは泥棒の国だよ。(爆笑)

 (旭さんに向かって)飲まないねぇ、ぜんぜん・・・

裕次郎 行くところへ行かないと、飲めないか。(笑)

 コカ・コーラじやあ、コーカないだろ?(笑〕

 野郎ばっかりでロケってのはないかなあ。

裕次郎 女なんて現地にいくらでもいるから連れて行くことはないってんだろ。

 (マコ夫人がいるかどうかと奥をノゾいて)シーッ!

裕次郎 いないない。山中湖の別荘のほうへ用事で行っちゃった。(笑)

 女の子はやっぱり日本がいちばんいい!

裕次郎 そうそう。(笑)だけど錠さんはエジプトの女にぴったりだね。

 あんまりぴったりだと、珍重がられてツマンナイ(笑)

話はエジプト、メキシコ、アラスカをかけめぐって、酒から食べ物、ガンからゴルフへと、一席ブッたり、茶化したり・・・。歓談に花が咲いた。


海外ロケは夢がいっぱい

裕次郎 しかし日活はエライぜ。どの会社より、海外ロケをいちばん大きくやってるじゃないか。年にいっぺんなんてケチなこといわずに、スターが5人いれば、年に5本撮ろうというんだからな。
 錠さんなんか、外国へ行ったほうがサマになるんだ。木星号が落っこちた三原山の麓でやってるんじゃダメだよ。(笑)<*『海から来た流れ者』のことか?>

 オレはね、映画というものは徹底して面白くなくちゃいけないと思うんだ。裕ちゃんがケガして、トニーが死んだでしょう、自分でも一生懸命やったわけですよね。
 だけど脚本もろくすっぽ読めないような状態で、短期間で撮れといわれてもムリだ。これは少しずつ改善して行くべき問題だけどね。ワキ役の時は映画に対する責任をあまり感じなかったけど、入場料払ってオレを見に来てくれるんだと思うと、心がまえが違ってくる。

 うん、それはたしかにあるね。

 あいつを見るなら、もう100円出しても、200円出してもいいという、それだけの価値がある映画を撮りたいね。そのための努力を、みんなしてるんだ。

 みんなの気持ちの中にそういうものが燃え上がってるんだからいい。日活ぜんたいの盛り上がりとしてね。

裕次郎 やっぱり日活はアクションで行くべきだな。オレはアクション好きなんだ。日本の映画界はせまいところに首突っ込んでるんだから、外国ロケをどんどやる、夢があるからね。

 海外ロケには、背景がいい場合と、物語そのものの必要で行く場合があるけど・・・

裕次郎 だから、シナリオを読んでデイスカッション(討論)することも大切だ。やっぱり自分でうなずけない写真は面白くないもの。

 オレたちはほんとに映画が好きなんだなあ。

裕次郎 好きなんだよ、好きんなっちゃったんだ。

 人間って、たまには長いとヒマをもらって考えるべきだよね。アラスカへ行ってケガしちゃうかァ。(爆笑)

 オレはメキシコで土着するよ。ヒゲもじゃの山賊になって“革命児ジョー”なんてさ。(笑)

裕次郎 そいつはいい。ハッハッハ・・・

 

遅く帰宅するはずのマコ夫人が、まだ帰らないので、裕次郎さんは二人分の大サービス。
しゃべり疲れて「いっちょう、庭のプールで泳ごうか!」
という声も出たが、おりからの小雨でこれは断念。

一つテーブルで食事をともにしたあと、テレビの巨人中日戦を見ながら、ゴキゲンな夏の一夜を楽しんだスリー・ガイだった。

 

裕次郎さんのエジプト・ロケ作品『ナイル河の決斗』は、来年にまわった大アクション映画『キリマンジャロに立つ男』に代わる作品で、三週間の予定で出発が決まった。
アフリカの猛獣を相手に大暴れする大冒険映画は、しばらくおあずけだが、戦列復帰後の初の海外ロケ作品として期待される。
ほかに 『堂々たる人生』『青年の椅子』『雲に向かって起つ』の予定作品。

アラスカ・ロケの旭さんの作品『アラスカの嵐』は北半球の最高峰マッキンリーやうっそうたる大森林を舞台に、幾多の妨害と闘いながら大バルブ工場を建設する一日本青年の物語だ。「男対男の徹底的ななアクション・ドラマにしたい」という彼のファイトが楽しみだが、撮影中の『大森林に向かって立つ』『嵐を突っ切るジェット機』『黒い傷痕のブルース』など、年内のスケジュールがいっぱい。アラスカ行きは来春になりそうだ。

いっぼう早射ちジョーのメキシコ・ロケが期待される『メキシコ無宿』は早射ちどうしの復讐物語になるはずだが、高原をバックに友情とロマンスを盛り込んだ娯楽映画が狙い。年内作品としては『俺は地獄へ行く』『紅の銃帯(ガンベルト)』がある。


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*文中に不適切な表現がありますが、当時の雰囲気を知っていただくために、そのまま再現したものです。ご了承下さい。 <出自:週刊明星 1961.9.10号>

**この資料は、sanaeさんからの提供です。

 

 
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