昭和39年(1964)の秋頃に行われた、アキラさんの話題の匿名記者座談会
ちょうど、『黒いダイスが俺を呼ぶ』 の公開を控えていた頃。


匿名記者座談会

司会 さすらいのギャンブラーシリーズで小林アキラさんの人気がふたび爆発したようですが・・・。人気復活の秘密やその他の旭さんに関するお話をベテラン記者の皆様にお話願いたいと思いますが・・・。

 主に週刊誌のネタ合戦でひばり・アキラの結婚は大々的に報道された。それ以来、二人の生活は相当の興味を持って見られて来たといえる。

 あの時はすごかった。世紀の結婚・・・などと言われたほどだから、たいへんな騒ぎだった。一応、日本人で、二人の結婚を知らない人間はいなかっただろう。赤ん坊をのぞいてはね・・・。(笑)

 その結婚がはたしてうまくいくか・・・というようなことを人々は知りたいわけで、そこで各誌の取材合戦が始まった。

 半年たち、一年がたった。互いの仕事は忙しい。ひばりは歌の女王といわれた人だし、仕事への熱意は失っていない。

 ところが旭の立場としては、ひばりに仕事をさせたがらない。

 恋女房として、家にそっとしておきたい気持ちは夫の立場を考えるとよくわかる。

 だが、問題はカンタンには行かない。性格の相違もあったろうしね・・・。

 ひばりは、幼女時代から苦労してきた。そして、あの若さで、あれだけの仕事をした人間だからやはり、相当に気が強くなければやって来られなかっただろう。
一方、アキラの方としては、夫の言うことをよく聞く、おとなしい妻君が欲しかった、とみられるフシがあるんだな。

 夫婦生活というのは難しい。平凡な人間の夫婦生活だって結構波風があるんだから・・・。 

 ドイツのえらい哲学者が言っている。夫婦とは、長い長い会話である・・・とね。

 長い会話か・・・。なるほど、そういうことになる。

 朝から晩まで顔をつきあわせているんだから・・・。(笑)

 まあ、これは一つの例だが・・・。こんなふうに、夫婦生活というものは、忍耐を要するものだ、とその哲学者は言っていることになる。

 ひばり・アキラの場合も、さまざまな原因がからんで、遂に別れねばならなくなった。

 ここでお互いに幸せだったことは、泥仕合にならなかったことだな・・・。

下降線を辿る処だったが・・・

別れた後にも、お互い、仕事の事を考えている。仕事があるという事はありがたいことだと思うね。

 確かにそうだ。ひばりの場合も、仕事に生きる女だ。夫婦生活以外にも、一生の仕事というものがある。だから、離婚の痛手も仕事によって救われているね。

 ひばりはテレビにハッスルした。

 ものすごく視聴率が良いようだ。

 ひばりファンも喜んでいる。

 結婚した当時は、これで歌の女王といわれたひばりも、ついにつぶれるのではないかと心配されたものだが見事にカムバックしたことは、同慶の至りだ。離婚はたしかに不幸な経験だったがね。

 そのことはアキラ場合にもいえる。たしかに不幸な出来事だった。

 アキラは二枚目だ。二枚目スタアが結婚すれば人気が落ちることは、アキラの場合に限らないのだが・・・現実に、アキラの場合も人気がぐっと下がった。

 そこで「無頼無法の徒・さぶ」を撮った。これは、明治・大正もので、アキラ・ファンの鑑賞には耐え得ないものだった。ちょっと、それまでのムードと違った作品だった。

 ファンが抱くイメージとの間に大きなギャップがあったことはたしかだ。

 はっきりいって、それ以来、アキラはちょっと沈んでいたといえる。

 日活における裕次郎とアキラは、車でいえば両輪だ。その裕次郎が自分でプロを起こした。もちろんホーム・グラウンドは日活だが・・・。一方、アキラは下降線を辿った。

 裕次郎、アキラという切り札を失った時、日活はちょっと参ったのだが・・・。そこで、大車輪の活躍をしたのが、吉永小百合だった。

 あの若さで日活の屋台骨を背負って立ったわけだ。

 裕次郎、アキラの代わりとして浜田光夫、高橋英樹を大いに売り出そうとしたが・・・、これまた、伸び悩みの状態だった。

 苦しい時代にアキラの下降線は、日活にとって大きな痛手だったことはたしかだ。

 ところが、そこに持ち上がったのが離婚問題だ。

巻き返しにファイト満々

 離婚問題が原因で・・・といってはアキラが可哀想だが・・・。しかし、この離婚が社会に投げた波紋は意外に大きい。結婚の時と変わらず、いやそれ以上の大問題となって、アキラの名前が大きく浮かび上がって来たことはたしかであろう・・・。

 そこへ登場したのがギャンブラー・シリーズの第一弾「さすらいの賭博師」だった。

 離婚という同情票もあったろうが、また渡り鳥を思い起こさせるような作品だったので、アキラはこの作品によって、ふたたび大きくクローズアップされた。

 日活という会社は、殊に機を見るに敏な会社で、アキラの再爆発を目にして、またまた売り出しの気運がもりあがった。

 最初、アキラの渡り鳥シリーズが当たった頃、日活の首脳部がこんな話をしていた。渡り鳥は、いわゆる日本のナニワ節だ・・・。イキでイナセでありながら、一方めっぽう悪には強い、ピストルに強く、アクションに強い・・・。そして、すがる恋風、背に受けて式に、とりすがる美女をふり切って、またあてのない、さすらいの旅に、ひょうぜんと出ていく・・・。こいつは、たしかにナニワ節だが、日本人の大衆に愛される。

 渡り鳥は、たしかに現代ナニワ節だといえよう。「さすらいの賭博師」も第二の渡り鳥だといえる。

 日本人には、このような哀愁がいちばんぴったりくるんだ。

 アキラは立ち廻りはうまいし、ピストル、ダイスもうまい。アクション・スタアとしたら、ナンバー・ワンだろう。

 スタア作りのうまい日活のことだ。この巻き返しを、いままでのアキラの実績の上に乗せて行くだろう。

 いままで沈んでいたが、どっこいおいらは生きていた、というところだね。

 不遇の間、彼は何をしていたか。アキラのセリフでいうと、「オレはアクション・スタアだ。アクションは、若いうちしかやれない。ジョン・ウェインや故ゲーリー・クーパーは、五十過ぎても、若い連中を相手に立ち廻りをやり、馬にも乗っている。彼らはそれをリアルに演じている・・・。日本では、そこまではとても無理だろうが、三十代の中頃までなら、オレにもやれる自信がある・・・」

 えらいねアキラは・・・。

 うん、なかなかどうして立派なものだ。だから、その不遇時代も決してぼんやりしていない。日程を組んで身体を鍛えていたよ。

 彼のアクションは天才的にうまい。彼は子供のころ、左ギッチョだった。父母がそれを心配して、右手を使わせるようにした。だからアキラは、両方の手を器用に使うことができる。それがいま大きなプラスになっている。

 高校時代から柔道はやってる。スポーツは万能だ。

 それに身体を鍛えたら、鬼に金棒といったところだ。

 彼のハダカを見たが、なかなか立派だよ。肉がよくしまっていてね・・・。

 ボディビルをやっている。

 毎朝、ハダカになって体操をやっている。

 彼の家に行くと、バーベルだとか、エクスパンダーとか、運動用具がごろごろしている。
  その上、ボーリングをやったり、ゴルフをしたり・・・。

 大いに身体をきたえているわけだ。

人間性に幅と厚みを

 彼の魅力はさまざまだ。アクション、歌、二枚目・・・いずれを見てもいける。

 こんな話がある。裕次郎の魅力は、本線の魅力、アキラの魅力は、支線の魅力・・・というんだがね。

 うん、おもしろい。裕次郎が東海道本線、奥羽本線、東北本線・・・というふうに都会
に受けるのだが。・・・アキラの場合は、その本線から支線に乗り換えて、その二つ三つ先の駅みたいだ・・・。つまり、本線からちょっと入った支線で受ける、ということは田舎の魅力ということになる。

 マネージメントをやっている興行師がそこに目をつけたようだ。だから彼は、今年の夏あたりから、関東地方をはじめ、信越地方に巡業している・・・。

 圧倒的に受けているようだが、アキラにとっても、地方巡業は勉強になるだろう。

 彼は今、歌にもファイトを燃やしている。クラウンに移ったが、クラウンは若い歌手ばかりだ。彼らに負けぬように、ファイトを燃やしている。

 アキラの行動半径が非常に広くなった。テレビなども、以前は「スター千一夜」ぐらいしか出なかったが、いまは、クラウンの宣伝上からも、テレビにどんどん出演して、歌いまくっている。

 映画の入りはいいし、地方に行ってガッチリとファンをつかんでいる。だから、今後の彼には、大いに期待したいね。

 


「別冊近代映画・12月号/小林旭特別号」よりの無断転載


《管理人コメント》

文中にあるアキラさんの不遇時代の検証。 1964年、前年からの任侠映画路線の出演が続く(「東海遊侠伝」「花と怒濤」)、その後に「さぶ」、続いて『生きている狼』そして『さすらいの賭博師』、この3本は白黒フィルムである。この頃の日活映画の話題作は、正月映画の『赤いハンカチ』『月曜日のユカ』『夕陽の丘』『肉体の門』『風と樹と空と』『赤い殺意』『愛と死をみつめて』など。8月5日公開 の『さすらいの賭博師』は、ファンが望む渡り鳥スタイルがそこにあった。作品は小ヒットの確かな手応えを得た。そして続いて『黒いダイスが俺を呼ぶ』で壮絶なアクションを演じて、アクションスターとしてのその存在感をアピールした。しかし、この作品も白黒作品であった。
間に挟まれて公開された『俺たちの血が許さない』は、『愛と死をみつめて』のロングラン上映に関連して社内からは公開延期の反対意見もあがった。これはカラー作品だが、明らかに高橋英樹さんを「男の紋章」シリーズとは違う面を売り出すためのものでしかなかった。そこでも、アキラさんは壮絶なアクションを演じた(高い崖から飛び降りるシーンを自らが演じて、膝の肉をえぐる)。
そして、12月19日に『ギター抱えたひとり旅』が公開される。これは、まさに渡り鳥の再来だった。お約束のファーストシーンでの坊やの登場などは、まさにそれである。主題歌までもが「東京シェーン」のフレーズにより、いやでも渡り鳥を意識させる。その上、自己パロディ化された挿入歌「宇宙旅行の渡り鳥」を歌われる姿を見ては涙さえもこらえきれないほどの裏返しの悲哀を感じてしまう。
そして、翌年の正月2週目公開は『拳銃無頼帖・流れ者の群れ』で、流れ者シリーズ復活を思わせる錠さんとの共演だったがシリーズ化は望めなかった。(7/24再編集)



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