キャバレー「ムーン・シャドウ」
山間部には珍しいネオンきらめくキャバレーがある。
名前は「ムーン・シャドウ」。室田鉱業が経営する店である。
勢いの良いマンボのリズムが流れるフロアは、この町の雰囲気とはかけ離れていた。
薄暗いフロアの中心に突然、明るいスポットがあたり、
白い肌を露わにしたダンサーが面積の少ないラメの衣装を付けて胸をそり、
誘うような視線は一点を見つめていた。
「ウーッ」のかけ声と共にダンサーがリズムに乗って踊り出す。
一瞬の内に華やかで妖しい世界がくり広げられる。
フロアの奥の扉の向こうには場違いな無粋なコンクリートの通路が続く。
一つのドアには「室田鉱業」の金文字が輝いていた。
ドアの向こうでは、ボスの室田が大声を張り上げていた。
「なにっ、流れ者の一匹や二匹、そんなものに追い返されて、お前らはなんだっ!」
「けど・・・丈治さんが」いいわけをするチンピラを前に
「丈治がどうしたっていうんだ?」室田はソファで寝そべる丈治に向かって言った。
「あんた、こいつらの用心棒として行ってもらったんだ。それが・・・」
丈治は室田の言葉を遮るように
「おっと待った。俺は、あんたに用心棒として雇ってもらった憶えはねぇっ」
「しかし、あんた横浜の都村組から客分として来てもらったんだが、
タダ飯を食わすわけにはいかねぇ。こっちだって都合があるんだ」
室田は最後は聞こえないほどの小さな声で言った。
「なあに、あんたの子分どもがケガをしなかっただけ助かったようなもんさ。
むしろ、感謝してもらいてぇな」それを聞いて室田は、ぷいと横を向いた。
「じゃっ、もう用がねぇんだったら一杯いただいてくるぜ」
丈治は不敵な笑顔をふりまいてドアから出て行った。
それと同時に室田のそばで黙って聞いていた幹部の城島は
「ほっといていいんですか社長。あいつも流れ者ですぜ」
「フフフフ・・・ワシはちゃんと考えとるよ。まっ、見てなさい」
室田は不気味に笑った。
★
フロアではブルースが流れ、数組の男女が手を取り合ってダンスをしている。
やがて曲も終盤に近づいた頃、フロアの片隅に伸次が姿を見せた。
ギターを抱えて、演奏体制に入っている。
曲が終わると間髪を入れずに伸次の明るい歌声がフロアに響き渡った。
♪遠い空見て あの娘を想う 昼にゃ見えない 月の人
・・・・・ハァサノヨイヨイ サノヨイヨイ
歌声を聞きつけて奥からは、いつの間にやら室田の子分たちが伸次を囲んでいた。
丈治はカウンターで気持ちよさそうに飲んでいる。
伸次が歌い終わったと同時に子分たちが伸次に飛びかかった。
殴りかかってくるヤツを腕で受けて、相手のボディに一発。
腰にタックルしてくるヤツを腰を引いて横に飛ばす。
椅子で殴りかかるヤツを左にかわして、相手の股間を蹴りあげる。
とにかく、色んな技が飛びだし、あっという間に子分たちはのされた。
騒ぎを知って奥から室田が城島を伴い出てきた。
葉巻を手にして、おもむろに伸次に向かって言った。
「あんたが、滝さんか。なかなかいい腕をしてるね」
「あんたが弱い者いじめが好きな室田さんかい」
滝が言うのを聞いた城島は「なにをっ!」
「アッアッアッアッアッ・・・」こもった笑い声の主は丈治だった。
「今夜は流れ者組の勝ちだぜ、あんたの負けだ社長」
そう言うと、丈治は伸次に向かってウインクをしてみせた。

