ほのかな想い
事務机が並んだ片隅にあるソファに腰掛けて、伸次と西元は向かいあっていた。
「あなたが西元さんですか、はじめまして。私はあなたの妹さんと交際していた滝伸次です」
「あなたでしたか、妹からは手紙で知りました。可哀想なヤツでした・・・」
伸次は西元に片身のペンダント届けに来た事情を告げた。
それは伸次が持っていてくれと頼む西元。
そこへ微笑みながら由紀が、お茶を運んできた。
「どうしたのお兄さん、深刻そうなお話ね」
「いや、なんでもない・・・」言葉を遮った西元は遠い所を見るような表情になった。
「お兄さん、伸次さんを案内してもいいかしら?」
その返事を待つまでもなく、由紀は伸次を促すようにして誘った。
広い花畑には様々な種類の花が咲いている。
花の季節に光をいっぱいに浴びながら花は誇らしげに咲いている。
その中を歩く伸次と由紀は数年来の仲の良い恋人どうしにも見えた。
由紀は伸次に農園が置かれている状況を詳しく話した。
いや話さずにはおれない気持ちになったのかも知れない。
それは、窮地を救うために突然目の前に現れた超人にも思えたのかも知れない。
父が事業の心労のために一年前に亡くなり、鉱山の権利を室戸鉱業に巻き上げられたこと。
今は、別に経営していた農園が姉と自分に残されたこと。
姉は病弱で入院がちなこと、姉夫婦には一人の子供がいること。
姉の夫が西元で農園の経営を支えてくれていることなど一気に話した。
それは父を亡くして頼る人がいなかったせいかも知れない。
「お聞きしてもいいかしら、伸次さんの恋人だった人って亡くなられたの?」
「ああ、いいヤツだったけどね」
「私、その人がとっても羨ましい」
「そうかな、俺のような男とつきあって不幸だったかも知れない・・・」
由紀は突然、怒ったような表情で、
「そんなことはないわ。その人、きっと幸せだったのよ」
「どうして、そんなことがわかるんだい」
「女の直感かしら・・・」
二人が並んで歩いていると、
「オーイ、誰かぁ!」大声で呼ぶ者がいる。
呼んでいるのは、離れた所にある大きな木の下で小さく見える人物からだ。
その人物がこちらに駆け寄ってくる様子だ。
「オーイ、助けてくれぇー」声が段々と近づいてくる。
