平和を乱す者たち

崖に囲まれた窪地には一面に色とりどりの花が咲き乱れている。
その上を蝶々や蜜蜂が忙しく舞い飛ぶ。
その一角には四角い箱が整然と並んでいる。
ここは蜜蜂の養殖場だ。花を栽培し、蜜蜂から蜂蜜を採り製品化して街の市場に卸す農園だ。
ところどころに男女の働く姿を見ることができる。のどかな午後の風景だ。
突然、タイヤの軋む音が響き、男たちの叫声が聞こえた。
2台のジープに乗った悪ずれた格好の男たちが花畑を縦横無尽に走り回っている。
一瞬の内に美しかった花畑は無惨にもへし折れてペシャンコの花の墓場と化した。
「やめろーっ! やめてくれーっ!」
大声で飛び出したのは白髪頭に白くなった無精ひげの初老の男。
「何をするんだ、おめぇたち」老人はジープの男たちに詰め寄った。
「じいさんは、どいてな。ケガをするぜ」と、ジープの男が老人を足蹴りにした。
尻餅をついた老人をやさしく助け起こしたのは、
騒ぎを聞いてかけつけてきた農園の主人である西元五郎だ。
「君たちは、こんなことをして何が面白いんだ」西元は毅然として、男たちに言った。
「若社長さんよ、先代が残した借金を耳を揃えて返してもらえれば、こっちは文句がないんだよ。
あんたは、先代の娘と一緒になって社長に納まり儲けもんだけどな。
だから借金も一緒にしょいこんだんだよ」
「そんなことは、でたらめだ。義父は、そんな借金をしたおぼえがない」
「そっちにはなくとも、こっちには証文があるんだ」
「そんな物は、でたらめだ」
「なにおっ、これでも証拠はないというのか」
男は懐から借金証文を取り出した。
そこには5,000万円の金額が記されていた。
西元は、その場で押し黙ってしまう。
「返せねえなら、この農園を明け渡してもらうまでだな」
男は居丈高に責め立てるように言う。

「待ちなっ! どういう事情があるかは知らねぇが、
花畑を勝手に踏みつぶしといて、それはねぇだろう」
横から男に言ったのは由希と共にやってきた伸次だ。
「さあ、この始末をどうするんだ? ちゃんと元通りに戻して行くんだな」
「なにおっ」と、ジープの男が伸次に飛びかかろうとした時。
「待ちなっ、おめぇたちが叶う相手じゃねぇ。そいつの腕を見てみな。
ギターを持つよりハジキを持つ方が似合いそうだぜ」
そう言ってジープの後部座席からむっくり起きあがったのは、
眉間に皺のあるニヒルな中に人なつっこい愛嬌を秘めた男だった。
「そういうお前には、ハジキの鉛の匂いがするぜ」と伸次は返す。
「俺は横浜から来た『暗闇の丈二』ってんだ。あんたはの名は?」
「名乗るほどのもんじゃないが、滝伸次だ」
「あんたとは、いずれなんらかのカタをつけねばなるまいて」丈二はひとりごちた。
「鉄、ここんところは、お前の負けだ。引き上げるとしようぜ」男は運転手に促すと、
あばよと引き上げて行った。


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