過去との遭遇
 
  晴れ渡った青空の下、峠道をゆっくりと揺られながら馬車が行く。
空の荷台には一人の男が横たわっている。渡り鳥の滝伸次だ。
馬車の揺れに合わせて気持ちよさそうに眠っている様子。
と突然、安らかな表情が苦悶へと変わった。
 
 汽笛が遠くに鳴る夜の港、女が必死で走っている。
か細いヒールが折れそうなほどに揺れている。
その後ろをバタバタと男たちが追いかける。
「逃がすなぁ!」男が叫ぶ。
女は転びそうになりながらも必死で逃げている。
「あにきぃ」の声と共にフォークリフトに乗った男が女を追いかける。
女の足もフォークリフトにはかなわず、たちまち追いつめられて・・・
「キャーッ」
女は岸壁の段差から足を踏み外し、コンクリートに打ち付けられた。
 伸次は思わず目を開けた。
かつての恋人が亡くなった状況が夢となって現れたのだ。

佐渡にある恋人の墓にも長く行ったことがない。
そんな中で、ふと風の噂で彼女の兄が筑豊に住んでいると聞いた。
首には彼女の片身のペンダントが下がっている。
ただ、自分が黙ってこれを身につけているのが後ろめたい気もする。
一言、事情を彼女の身内に話したかった。
そんな思いの旅でもあった。
「にいさん、こっちに行きんさるんか」
馬車をあやつる老人が伸次に声をかけた。
「あんたが行きたいという花沿村は、こっちじゃ」と分かれ道の一方を指さした。
伸次は礼を言って、ギターを片手に荷台を降りて歩き出した。


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