歌う日活スター
   

 

 

 

 

 


かつて、日活のスターたちは必ず歌を歌わなければならないという不文律があった。

裕次郎さん、旭さんはもとより、トニー、錠さんも歌った。和田浩治さんまで歌った。
その上、二谷英明さんまでが歌った。女優さんも吉永小百合さん、浅丘ルリ子さんなど。
第1回目は、歌う日活スターたちの主題歌関係の秘話をどうぞ!


「感動は目よりも耳に残る」見事な名言と言えるでしょう。

これは、かつての日活映画で数々のヒットを飛ばした日活のプロデューサー、児井英生氏の言葉です。
歌謡曲・流行歌が元気だった頃、「歌は3分間のドラマ」とも言われていた。
昭和32年暮れ、人気急上昇中の石原裕次郎さんを不動の人気とした映画『嵐を呼ぶ男』でも主題歌は
重要
な役割を果たした。ドラム合戦のシーンで傷ついた手をかばいながらドラムを叩く。やがて痛みで
叩けなくなり、マイクを掴んでスティック一本で主題歌を歌う、このシーンは映画のクライマックスで
もあった。この作品をプロデュースされたのが児井氏です。
当初、裕次郎さん所属のレコード会社であるテイチクはこの歌に難色を示し、レコード化を拒否した。
先に歌を先行させて期待感を募るという狙いが阻止されたので、氏は急遽ソノシートを作って全国の映
画館に配布し、歌を流したそうです。その結果、映画は大ヒットし、異例の続映と封切り後暫くしてか
ら再上映も行われるほどに大ヒットしました。

「嵐を呼ぶ男」はドラマーが主役だった。次はギターだ !

会社側(日活)は裕次郎さんに次ぐスターを求めていた。そして、児井氏にそれを託した。
児井氏は当時、順調に人気を得て来た小林旭さんを売り出すことに決めた。氏は『嵐を呼ぶ男』の製作
意図に長谷川伸の義理人情の世界を持ち込み成功させた。それにならい、小林旭さんの新作企画にあた
っても長
谷川伸の股旅ものの世界で行こうと考えていた。
氏は『嵐を呼ぶ男』の監督である井上梅次監督に相談した。監督は『嵐を呼ぶ男』の姉妹作品として
『嵐を呼ぶ友情』が制作したものの興行的には奮わなかったことに責任を感じていた時だった。監督は
次回作品を小林旭さんでやろうと思い、自分自身があたためていた案として、過剰防衛で警察を辞職し
た男が流しのギターひきになって、知らない土地に流れ着き、その土地の悪玉をこらしめて去っていく
というプロットを披露した。
そのタイトルが『ギターを持った渡り鳥』だった。児井氏はそのタイトルを聞いて、大いに感じるもの
があったが、井上監督は警察でもない人間がむやみに街中で拳銃を撃つ日活映画の風潮を嫌っていた。
だから、児井氏は刑事物のドラマで行きたいという自分の意向をあえて伝えなかった。
その場では話の
みに終わった。その後、井上監督は日活を退社し、その話は宙に浮いたままとなった。

児井氏は歌と映画の一体化を信条としていた。歌でイメージを増幅させ本編(映画)を見させる。この
手法は後々まで氏の独特の手法として継続して使われた。
氏の『ギターを持った渡り鳥』への思いは益々つのり、イメージが拡大していった。「シェーン」と
「ローマの休日」のラストの別れのシーンのような感動的な絵をつくること。古い股旅ものに現代感覚
のギターを組み合わせることで新たなヒットを予感した。氏は大学時代の同級生である原健三郎氏(元
参議院議員)にも相談して、アメリカ留学時代の話などを参考にしたり、井上監督を訪ねて『ギターを
持った渡り鳥』のタイトルを譲ってもらうための交渉をし、タイトルのみ譲り受けることにした。
早速、コロムビアに主題歌づくりを依頼する一方、若手のシナリオ作家山崎巌氏に台本づくりを依頼し
た。その後、先に出来上がっていたメロディーに、台本をベースに作詞を依頼し、完成した主題歌が各
映画館で流された。観客は新たなヒーローに酔い、映画は成功を収めた。
そして、続く第2弾『口笛が流れる港町』も正月興行で大ヒットした。


「赤いハンカチ」は「ギターを持った渡り鳥」に想を得た作品だった


当時、石原裕次郎さんは自分のプロダクションを設立後、ヒット作に恵まれず低迷状態にあった。それ
は日活にとっても大きな損失であった。会社はヒットメーカーである児井氏に裕次郎さんを託した。
片や裕次郎さんの歌は、次々とヒットを飛ばしていた。「赤いハンカチ」もそのひとつであった。
歌と映画の一体化が信条の氏は「赤いハンカチ」にこだわり歌と映画が成功をみた“渡り鳥シリーズ”
にこだわりがあった。それは上記のような井上監督とのいきさつがある。小林旭さんを売り出す時に使
われたプロットである過剰防衛により辞職した刑事の設定。そこから想を
得たドラマづくり。
既にシリーズは終わっていたが、児井氏は『ギターを持った渡り鳥』にこだわり裕次郎さんに打診した。
今度のラストは「シェーン」ではなく「第三の男」である。並木道を歩いて行く男の後ろ姿に主題歌が
かぶさって余韻を残す。裕次郎さんは、こう言った「『渡り鳥』じゃあなく、まるで『ギターを持った
裕次郎』ですねえ」これで製作は決まった。
『ギターを持った渡り鳥』の主人公は過剰防衛で神戸市警を辞職した男である。このプロットは「赤い
ハンカチ」でも使用された。同僚の刑事をかばうために護送中の容疑者を殺してしまい警察を辞めた主
人公は数年後、ギターを背にして現れる。もちろん、過去を引きずった男と女が再び自分自身を取り戻
すために、横浜の港町に戻ってくる。
「赤いハンカチ」の歌詞を意識しつつも新たに独自の世界を創出した名作となった。


  以上は「俺が最後の《プロデューサー》だ! 活動屋児井英生」永井健児著/フィルムアート社刊
 を参考に再構成しました。詳しくは本書をお読み下さい。(管理人)

 

 


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