大冒険映画をつくる


上のタイトルは、1970年6月1日付の"サンケイスポーツ"の記事からのタイトルです。当時は『鮮血の記録』が撮影の真っ最中。そんな中での興味深いインタビューが綴られています。上のタイトルが語られたのは以下のようなことから・・・(記事からの引用)

小林旭の主宰する"アロー・エンタープライズ"が年間二本の映画を自主製作、日活を通じてダイニチ映配系で公開する。「ナニワ節と言われるかも知れないが、ボクは日活で育った役者。その会社が不振といわれても、ボクは日活と心中する」という旭は、日活スターの自主作品で新しい日活の魅力をみずからの手で開拓しようという意気込みなのだ。その魅力とは「大冒険映画だ、役者が捨て身にならなけりゃあ、楽しいものはできないよ」とこともなげにいう旭である。

歴史的現実は、それらが叶わなかったものの、この情熱そしてサービス精神は旺盛なものがあります。この頃の意気込みは以下の小見出しにも表れています。

*** 秋に第一作 *** "観客失望させぬ"

「大冒険映画」についての記事をかいつまんで以下に紹介します。

秋にクランクイン予定とされていて、内容は準備中。小林旭さんの冒険演技の魅力を100%活かした内容とされる。

「冒険シーンでこわいのは、冒険をすること自体ではない。その演技をする役者が思わず身をかばってしまうことだ。そんな動きは必ず画面に現れるし、それが観客を失望させる。だからボクはいつも、このシーンでたとえケガをしても死んでもしようがないと思ってぶつかる」と、インタビューに旭さんは答えている。

「だが残念なのは、そんな思いでやった演技が、脚本、演出などの準備が不十分なせいで、その効果が画面に出ていないこと・・・」と答えて旭さんは自分の手を開いてみせた。「この手から煙が出たことだってあるんですよ、ヤケドしてネ」これは『命しらずのあいつ』での撮影中のこと。東京・有楽町のビデオ・ホールでのロケで、五階からロープを伝ってすべり落ちた。手を開いたら煙がフワーッとあがった。
「期待して試写を見ると、その迫力が出てないんだ。ボクが悪いところもある。もっと面白くしようと、撮影現場で冒険のアイデアを出したりするんだが、その場での思いつきだけに、準備不足になるんだ」

こうした準備不足を解消するために十分に準備期間を確保するために自主製作でということとなった。
また、以下のような興味深いことがらも話されています。

当時、冒険映画の俳優は旭さんと千葉真一さんだという前置きがあり、
「直接に聞いたわけではないが、千葉君がボクが共演したいといってたそうだ。望むところだがいろいろと事情もあり、実現は難しいでしょう」

「(略)彼のアクションはやっぱり身をかばっている。これは彼の本意ではないかもしれない。所属している会社があれば、社の意向としても、できるだけ危険をさけさせるだろうから・・・」
だから、自主製作でのぞむと結ばれている。

「ダイニチという新しいシステムで日活の再スタートだと、スタッフの意気込みはすごい。このムードの中で新しい日活の魅力はボク自身が作る。日活は役者としてボクの生まれ故郷だもの・・・」

<1970年6月1日「サンケイスポーツ」より抜粋>   

記事資料提供は「女優 高樹蓉子の跡」の管理人 takaさんです。

そして・・・


 昭和36年6月下旬号の「キネマ旬報」の読者欄に以下のような投稿がありました。当時、人気がうなぎのぼりの小林旭さんの熱烈なファンからのものです。「アキラ・ファンから」と題された内容は人気の凄さを伺い知ることができます。広島県の男性からの投稿です。


 俺はアキラ・ファンである。アキラの決定的デビュー作となった渡り鳥シリーズの「口笛が流れる港町」から最新作「大海原を行く渡り鳥」までの映画をことごとく見逃さずに観てきた。ファンというより、一種のマニアではあるけれど・・・。
 俺はそろそろ、渡り鳥シリーズに退屈しだした。この分だと、アキラ自身へも、倦怠を感づるかも知れない。最初の頃の「口笛の・・・」とか「ギターを持った渡り鳥」などで、しみじみとうたう、淋しそうな、アキラが懐かしい、またそういうアキラが、一番好きだ。
 「大海原を・・・」を観て一そう強くそれを感じた。男の哀愁みたいなものが漂って渡り鳥ものの、特徴といったものが「大海原を・・・」では全く観られなかった。はっきり言って詩情というものが、ないということだ。

 ファンが、アキラに何を求め、こんご、どんな役を演ってもらいたいかは、企画マンや監督より、われわれファンが一番よく知っているのだ。渡り鳥シリーズもこの辺が潮時ではなかろう、男の哀愁をとりいれた。趣向の異なったもので、息抜きしてみるのも、一策であろう。例えば、以前好評だった「東京の孤独」のような、準文芸作品で、勝負しても、決してアキラにとってマイナスにはならないと思うのだが。、
 とにかく、アキラファンとして、今の状態のままではアキラ映画にはついて行けないと、ハッキリ断言しておく。これも本当にアキラを思えばこそアキラをいつまでも、トップスターにしておきたいからこそいうのである。

以上が熱烈ファンからの投稿です。原文のまま掲載しました。文中に示されている「大海原・・・」は前作まで共演していた宍戸錠さんがライバル役から外れたこともあり、それまでのシリーズ作品に比較すると評価は低い。
芸能雑誌ではなく、映画専門誌にこうした内容が掲載されていたことに注目してみました。ちなみに、この号では『都会の空の非常線』がグラビアページで紹介されています。

※昭和36年6月下旬号「キネマ旬報」より

 
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