日活映画史において、昭和35年から昭和36年の2年間は確実に特筆すべき時期であろうと思われる。しかし、当時は別にして、こうしたことを殊更に強調した文章などはなかったのではなかろうか。石原裕次郎さんがデビュー後、昭和33年の正月映画『嵐を呼ぶ男』で日活はよみがえった。しかし、その裕次郎さんの映画も徐々に低迷し出した。会社側は第2のスターを育てることが急務だった。
そして昭和34年の夏、小林旭さん主演の『南国土佐を後にして』が思わぬ大ヒット。これが後の日活無国籍アクション映画の幕開けとなったのだ。

「無国籍映画」とは、渡り鳥シリーズ・流れ者シリーズに対して、新聞が批評的に書いたものである。現代日本なのに馬に乗り、田舎町なのに東京にあるようなキャバレーが登場し、西部劇まがいの衣装で現れるというあたりについて揶揄しものであろう。しかし、そんな批評にはおかまいなく、ファンは拡大して行った。何故、こうしたアクション映画が人々に受けたのか、そのあたりを探る。ここでは、こうした無国籍日活アクション映画を「和製西部劇」として位置づけることにします。西部劇のパターンによくあるライバルどうしのガンマンとの友情や一騎打ちの決闘などニュアンスを持つアクション映画。

こうした映画が受け入れられた背景には、当時の西部劇ブームや、空前のガンブーム(西部劇に登場する拳銃をはじめとしたオモチャの銃が売れた)、緊張した時代の世相などが考えられる。
西部劇映画の資料が乏しいために、絶対量も少なく公開時の正確性などには欠けるものと思います。その点はご了承ください。

 

 

 [昭和34(1959)〜36年(1961)の日活無国籍アクション映画(日活西部劇)] 

タイトル
封切り公開日
ワンポイント
ギターを持った渡り鳥
1959.10.11
 長谷川伸の股旅的世界と「シェーン」をヒントに作られた記念的作品
口笛が流れる港町

1960.1.3

 タイトルやプロットが先に出来ていたと思われる和製西部劇
拳銃無頼帖 抜き射ちの竜
2.14
 舞台は暗黒街だが、スピリッツは西部劇に近いものがある
海から来た流れ者
2.28
 ラストの火口での対決は、まさに荒野の決闘ともいえるでしょ
渡り鳥いつまた帰る
4.23
 佐渡の鉱山でのアクションシーンは、まさに西部劇の醍醐味
素っ飛び小僧
5.3
 とぼけた味の主人公が旅をしながらの銃の腕比べは西部劇の趣向
拳銃無頼帖 電光石火の男
5.14
 廃鉱でのアクションやピストルの技のライバルどうしの対決は西部劇
海を渡る波止場の風
5.28
 ライバル二人の殴り合いは名作西部劇「ベラクルス」を思わせる
俺は銀座の騎兵隊
6.4
 銀座の街を馬で駆ける主人公は、悪をくじく騎兵隊スタイル
赤い夕陽の渡り鳥
6.29
 典型的な和製ウエスタン、馬に乗り登場する主人公。馬車も走る
拳銃無頼帖 不敵に笑う男
8.6
 ライバルどうしの銃の競い合いは西部劇のパターンでもある
疾風小僧
8.21
 ピストルの腕がたつ主人公が様々なガンプレイを見せる
南海の狼火
9.3
 ある意味での日本版西部劇、闘牛などがそれらしさを感じさせる
大草原の渡り鳥
10.12
 日本版西部劇の極めつけ。西部劇のすべての要素がある
竜巻小僧
11.1
 荒唐無稽なガンプレイの楽しさは、まさに西部劇精神
大暴れ風来坊
11.16
 原野での対決(実際はゴルフ場)などにそれらしさを思わせる
拳銃無頼帖 明日なき男
12.3
 ライバルのガン対決は西部劇精神
俺の故郷は大西部
12.27
 タイトルからして日本版西部劇。ジョーク感覚で西部劇をとらえた
波濤を越える渡り鳥
1961.1.3
 日本版西部劇の変型、発展型ともいえる海外版の一編
紅の拳銃
2.11
 ベテランガンマンが若きガンマンにテクニックを教えるスタイルは西部劇精神
ろくでなし稼業
3.19
 ガンアクション、ガンプレイはウエスタンスピリッツ
早射ち野郎
4.1
 そっくりそのまま西部スタイルの町や人を作り上げてしまった
風に逆らう流れ者
4.9
 シリーズ中、最もウエスタンスタイルに近いイメージ
用心棒稼業
4.23
 ガンプレイ、テクニック自慢、スタイルの誇示はウエスタン精神かも?
大海原を行く渡り鳥
4.29
 日本の田舎に駅馬車が走り、ウインチェスター銃を持ち、騎兵隊スタイルの主人公
ろくでなし野郎
5.13
 舞台設定が西部劇スタイルの雰囲気
三つの竜の刺青(ほりもの)
5.21
 西部劇的ではないが、典型的な無国籍スタイルの映画
散弾銃(ショットガン)の男
6.4
 舞台設定が田舎町だが、スタイルは西部劇。保安官も登場
助っ人稼業
6.11
 西部劇ではないが、無国籍スタイルの映画
赤い荒野
7.30
 日本版西部劇を確立しようとした作品
高原児
8.13
 射撃大会や、黒づくめのガンマンスタイルのライバルの殺し屋など
紅の銃帯(ガンベルト)
11.10
 タイトルはもちろん、舞台設定も鉱山で西部劇らしさを演出
早射ち無頼 大平原の男
12.6
 日本版西部劇スタイルのシリーズの一編
北帰行より 渡り鳥北へ帰る
1962.1.3
 渡り鳥シリーズ中で抒情的ムードを湛えた作品であり西部劇的ではない

メキシコ無宿

1962.1.3
 日本版西部劇の最後の作品といえるでしょう

*上記は全てが西部劇パターンというわけではなく、無国籍性をポイントとしました。

     

左から『大草原の渡り鳥』『俺の故郷は大西部(ウェスタン)』『早射ち野郎』